「記憶に残るフリーペーパーへ」学生の街・京都で生まれた学生記者と読者のつながり

「日本一の大学生の街」と言われる京都で大学生とともにフリーペーパー「ガクシンFind」を発行し続けている則政喜宏さん。原動力は、創刊から約40年という長い歴史の中で生まれた読み手と作り手の繋がりを守りたいという思いだ。紙媒体の衰退が危ぶまれる今日だが、時代が変わっても学生や人と人との繋がりの温かさは変わらない。京都の大学生と共に歩んできた40年間とフリーペーパーに託す思いについて、則政さんに語ってもらった。 (聞き手:児玉理紗 連載企画:学生が迫る、メディアの担い手の素顔)

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(学生スタッフとリモート編集会議する則政さん:中央上)

日本一古い大学生向けフリーペーパー

ーーフリーペーパー「ガクシンFind」が生まれた経緯を教えてください。

1979年9月に「きょうと学生新聞」という名前で創刊されました。私はまだ大学生でバイト先の楽器店がガクシンに広告を出していたのもあり、当時は一読者でした。創業者が海外旅行好きで、海外の空港に沢山のフリーペーパーを見つけたのがきっかけだと聞いています。当時の日本ではフリーペーパーという言葉もなく、無料で読める紙媒体を自分で創業しようと思い立ったそうです。

偶然出身大学も居住地も京都だったので、「大学生の街」と言われる京都で発行するならターゲットは大学生だろうと。「学生新聞」を省略して「ガクシン」と呼ばれていたので、個人事業から法人にするときに「ガクシン」という名前を使いました。私が引き継ぐときに「発見する」という意味の「Find」をつけて、現在は「ガクシンFind」という媒体名と事業名になっています。

ーーフリーペーパーは結構新しい媒体なんですね。

当時はインターネットも携帯電話もなく、学生の文化の発信や、学生のイベントを見つける手段がありませんでした。例えば、ライブハウスで何日何曜日に誰が演奏するのかを知るにしても、大学生であればクラブやサークルで情報交換するしかなかったでしょう。フリーペーパーは販売されている雑誌に載らない情報を無料で提供するという発想で、海外のものを先取りしたんです。インターネットがここまで広まる前は非常に画期的な方法だったと思います。

ーーガクシンFindと他のフリーペーパーとの違いや特徴は何ですか。

全国的な規模のフリーペーパーはあまりなく、地域や年齢、家族構成などのターゲットが絞り込まれているのが一つの特徴です。ガクシンの場合は京都を中心とした関西の大学生にターゲットを絞っているところが特徴です。現在は個人事業としてやっていますが、企業として1979年から続いている大学生向けのフリーペーパーとしては日本で一番古いのではないでしょうか。

ーー大学はどのくらいの規模まで広げて置かれているのですか。また、京都以外でも設置しているのですか。

今は個人事業になったので設置場所は絞り込んでいますが、実績も含め京都府下のほぼ全ての大学に設置しています。運送業者に頼まずに自分たちで設置して回っているので、他府県まで設置するにはマンパワーが必要です。社員数が多かった頃は手分けしてワゴン車に積み込み、大阪府下の大学に持って行ったこともありましたが、今は京都府下だけです。不定期ですが、滋賀の一部の大学にも設置しています。

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(1979年創刊のフリーペーパー「ガクシンFind」)

ガクシンFindを存続させるために

ーー現在は主にどういったお仕事をされていますか。

個人事業主なので、全体の企画や管理、紙面構成、編集、営業など、ガクシンの発行や経営に関わる全てを行っています。最終段階のイラストレーターを使うデザインは、デザイナーに外注しています。ガクシンには大学生サークル員が20名くらいいて、インカレのサークル活動として記事の企画から取材、執筆まで様々な活動をしています。そのため、彼らとのやり取りや月1回の編集会議もしています。学生をインターンやアルバイトとして雇用しているわけではないので、彼ら自身にスタッフとして働いているとかボランティアをしているという意識は全くなく、自分たちのやりたいことをガクシンを通じてやっているという感じです。

ーー以前はもう少し人数がいたのですか。

10年ほど前のピーク時で150人くらいはいたと思います。当時はデスクを作って分かれ、それぞれ担当の活動をやっていました。例えば、一つのテーマを100人に対して聞く「100人アンケート」や、学生記者が思うイケメンに取材する「イケメンを探せ」という企画があって、そのような企画には人数が必要でした。大学さんに許可を頂いて、場合によっては腕章をつけて、キャンパス内の限られたエリアや時間で取材をしていました。

ーー学生の主な活動は、取材の企画案を出して実行するというものですか。

定番のコーナーを担当したり、自分で企画を考える学生サークル員もいますが、映画会社や音楽会社からこの人を取材して下さいとか、新しくCDを発売するのでレビューして下さいなどとお声がけがあるんです。映画関係では新しく公開される映画の試写会、俳優の方や映画監督へのインタビューのオファーが来ます。取材者募集グループLINEで募集をかけて、手を挙げた学生サークル員が取材します。取材には私が立ち会う場合と立ち会わない場合があります。例えば、映画の試写は学生が映画を観てレビューを書きますし、舞台挨拶は全く立ち会いません。

ーー映画や音楽は京都に縁のある方からのオファーが来るのですか。

縁がある場合もありますし、全く関係なく若者に支持が得られるアーティストだからという場合もあります。関西で大きなイベントがあると、事前プロモーションの依頼も来ます。

ーー2017年に発行業務を則政さんに譲渡された経緯を教えて下さい。

私は1990年にガクシンの前身「きょうと学生新聞社」に入社しました。その後、「有限会社きょうと学生新聞社」になり、「株式会社ガクシン」へと法人改組していきました。2009年に事業そのものを地元京都の広告代理店「クリエイション株式会社」に業務譲渡されることになり、業務と一緒に社員も「株式会社ガクシン」を退職して「クリエイション株式会社」に転籍し、私が「クリエイション株式会社 ガクシン事業部」の責任者になったんです。ただ、事業内容や発行物は全然変わりはありません。その後クリエイション株式会社の河村社長からお話を頂いて、現在に至ります。

ーー個人に譲渡された理由は何ですか。

そのころ、他社で億単位の利益がある情報誌を廃刊にして全てネットに切り替えた事例があったんです。時代がそういう方向に向いており、企業がフリーペーパーを発行して利益を得るビジネスモデルは今後難しいのではないかと思いました。そこで、可能な限りコンパクトな業態で30年、40年続いているフリーペーパーを存続させるために個人で始めることにしました。とは言え、発行元が変わるだけで人が変わるわけではないので、内容や学生スタッフの活動に変化は全くありませんでした。

ーー雑誌や新聞に比べてフリーペーパーの良さや特徴はなんですか。

読者の手元に渡るルートが違うので比べることは難しいのですが、もちろん無料であること、年齢層やターゲットや地域が絞り込まれていることが特徴だと思います。販売メディアにも特徴や質の問題があり、非常に少人数のコアなターゲットに向けているのか、もっと一般に向けているのかという部分でも違いがあるでしょう。フリーペーパーは読者の身近にあるのが強みだと思いますね。発行している立場からすると、無料で販売メディアに負けない良質な情報が掲載されているという自負もありますし、そういうものを目指していきたいです。

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アクティビティ体験取材中の学生記者。
ガクシンFindには様々なコーナーが有り、学生が記事を担当する。

コンセプトがないのがコンセプト

ーーガクシンFindのコンセプトは何ですか。

実はないんです。しいて言うなら、「常にその時代の学生が興味のあることを取り上げる」がコンセプトですね。理由は造り手も読み手も同じ大学生だからです。ただ、多少はその時の在籍ガクシンサークル員の興味のあることに左右はされますが。例えば、音楽が好きな学生が多い時は紙面が音楽の記事で埋め尽くされるし、映画が好きな学生が多い時は映画の記事だけで3、4ページに亘る特集をします。自由度が高いんです。

ーー読んでもらえるフリーペーパーにするためにはどのようにしたら良いとお考えですか。

正解はありません。面白い内容が載っていたとしても、その媒体を見つけてもらえなかったら読者に届かないので、どうやってプロモーションするかも大切です。ガクシンの場合は記事の内容は学生の発想をとても大事にしています。だから、自分が好きなこと、自分が興味のあることでいいのではないでしょうか。

例えば、ガクシンFindのサークル員の中に、自宅が京都の中心部から離れた場所で大阪の大学に通っていて、なかなか活動に参加しづらい学生がいました。その学生は大学の食文化学部で勉強しており、インスタグラムの趣味アカウントに載せている自作の料理がすごくおいしそうなのだと、他のサークル員から聞きました。私はその学生と連絡をとって、「それガクシンのコーナーにしようよ」と言ったんです。

実は元々『プロジェクトC』という、学生が何人かでテーマを決めて食事を作るコーナーがありました。バレンタインに男子が女子に何人かでスイーツを作る企画では、美味しそうなのもありましたがすごく下手なスイーツもあり笑いを交えた記事にしていました。今はコロナ禍で複数人集まって料理を作るコーナーは休止していたのですが、一人暮らしの学生が家でうつうつとしてる中、料理でも作って発散してみたらどうかという意味合いを込めてそのコーナーを復活させました。記事は紙媒体や電子版に掲載されたり、SNSでシェアしたりするので、そのコーナーを持つことになったサークル員の学生から「とても楽しいです。声を掛けてくれてありがとうございます。」と言ってもらいました。

自分が興味のあることは何人かの他の人も絶対興味があるだろうし、それを自分で企画してメディアで発信することは面白い、ということにみんな気づいていないんです。何をしていいか分からないのは、沢山の人に読まれなければいけないという変なプレッシャーがあるのだと思います。結果を求めても答えはないので、自分たちが興味のあることをやればいいんです。

ただ、そこにルールやマナーを自分たちで設定する必要はあります。ある大学の学生フリーペーパーで「単位の取りやすい授業特集」を載せたコーナーを作っていました。自分たちが興味のあることかもしれないけど、ルールもマナーもない。ガクシンのサークル員がそういう記事提案をしてきても採用されない数少ないNG事項の一つです。

ーーガクシンFindがネット媒体を作られたのはなぜですか。

ガクシンがインターネットに取り組んだのは非常に古くて、1996年くらいにはドメインを取ってホームページで発信していました。しかし、紙媒体をネットメディアにスムーズに移行するのはとても難しいことなんです。ガクシンもその例に漏れず、特にネットで大成功しているというわけではありません。ただ、紙だけで戦うのはもう成り立たないと思うし、紙ではできないことが多くあります。今はフリーペーパーを電子版化しており、SNS連動や独自のウェブ記事も展開しています。例えばアーティストの取材を記事にしたとき、SNSで電子版の記事をシェアすることができるし、YouTubeのURLを張り付ければすぐにそのアーティストの曲が聞けます。そういう利点をどんどん利用すべきだと思います。これからは紙じゃなくてネットですよ、と言うのではなくて、自分たちはフリーペーパーを作っていますということをネットで発信することも意味はあります。

コロナ禍でもガクシンFindを届けたい

ーーコロナ禍で大学がオンライン授業の間、紙のフリーペーパーは大学に置けないと思いますが、どうされていましたか。

2020年はコロナ禍で大打撃を受けまして、創刊以来初めて何回か臨時休刊しました。仮に何とかして大学に置いても、読者がいないのではスポンサーに広告出広をお願いできません。私が入社したときから取引がある居酒屋さんから、初めて広告を出せないと言われました。様子を聞こうと電話すると、「予約のお客さんが全部キャンセルになって厳しいけれど、前みたいにお客さんが戻ったらまた広告をお願いするね。」と言ってくれるんです。

企業、商店との取引は今非常に厳しい状況ですが、行政から大学生に向けた情報を載せることもあります。広告費を頂かない場合でも情報を頂いたら発信するスタンスです。紙だけじゃなくて、webとかSNSとかも紐ついて、しっかり広報の役に立てれば生き残る道もほんの少しですが見えてくるのではないかと思います。

さらに、京都では大学の周辺に一人暮らしをしている学生が多いので、ポスティングも実施しています。京都は大学生の街と言われていますが、大学生の数で言うと日本で4、5番目です。ではなぜ日本一の大学生の街と言われてるのかというと、京都の人口に対して大学生の数が多く、大学生人口密度が日本一ということです。

ガクシンでは、20年以上前に学生スタッフを動員して、数万室の学生マンションのリストを作りました。それをもとにポスティングをするのですが、ポスティングは非常にトラブルになりやすい業務です。特に京都の方は大学生を大事にするので、ワンルームマンションのポストに何かを入れるのは非常に厳しく、大体「無断投函禁止」の張り紙が貼ってあります。最初は「うちには入れないで下さい」という連絡が結構ありました。でも元々大学さんに設置の許可をいただくような内容なので徐々にそれも無くなりました。むしろポスティングしていないワンルームマンションのオーナーさんから、入居者サービスの代わりにしたいから置いて欲しいという問い合わせがあります。

今はステイホームの時期で、緊急事態宣言下では大学にほとんど行けず、クラブ活動もできず、アルバイトもあまり見つからず、大学の課題に一人で部屋にこもって黙々と取り組む。そんな状況の中で、せめて気晴らしにガクシンでもどうぞという気持ちでポスティングしています。また、2、3年前から就職活動コーナーへの取り組みを強化して、月に一回無料のセミナーも行っています。これはガクシンサークル員以外の方でも申し込みが可能です。

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(メイク&フォトスタジオにて表紙の写真選定中)

読者の学生にも記者の学生にも記憶に残るフリーペーパーに

ーー今後ガクシンFindを、作る側、読む側両方の京都の学生にとってどんな媒体にしたいと思いますか。

紙媒体を手に取って読むインパクトは非常に重要だと思っています。地方から京都に下宿しているガクシンサークル員が、自分が書いた記事が載っているガクシンを実家に送ったところ、親御さんや特におばあちゃんが非常に喜んでスクラップまでしてくれているそうです。webだと実感のないものでも、紙だとリアルに残るところがフリーペーパーの良さだと思います。

また、ガクシンに関わった人にとっても記憶に残るものであって欲しいとも思います。あるメジャーなバンドにインタビューしたときにメンバーの一人から「学生の頃、ガクシンの『イケメンを探せ』のコーナーに載ったことがあるんですよ」と言われたこともあります。広告やスポンサーもガクシンは大事にしています。ある行政の広告担当の方からは、大学生のときにクラブの部室に毎月ガクシンがあって読んでいたと聞きました。他には、『花のキャンパス』というコーナーで表紙に載った人の中で人気局アナになった人もいます。

ーー読者だった人や掲載された人、取材した人がどんどん繋がっていくのが、ガクシンの強みですね。

40年続いてるので、サークル員のOBがもう沢山いて、SNSのメッセージや電話で連絡をくれます。ガクシンFinⅾは僕が辞めますと言ったらなくなってしまう媒体です。でも、今はそれは出来ないし、する気もありません。どうやったら残っていけるのかを考えます。

よく昔の学生と今の学生はどう違いますかと聞かれるのですが、全然違いがないと感じます。周りの環境、時代は違っても、関わってくれるのは20歳前後の大人でも子どもでもない、自分が成長する貴重な時期の学生たちです。多くのメディアは作り手や読者が歳を重ねていくとそれに合わせて内容が変わっていくし、当然そうあってしかるべきですが、ガクシンの場合は常に作り手も読者も大学生であり、全く変わらずに続けられるのが強みだと思います。

則政喜宏
大学卒業後、京都の大学生に向けたフリーペーパー「ガクシン」の制作に携わる。2017年から個人事業「ガクシンFind」としてガクシンの発行に関わる全業務を引き継ぐ。現在はサークル活動として記事の企画や取材、執筆を行う学生と共に、ガクシンの発行を続けている。

聞き手&執筆担当  児玉理紗
株式会社クロフィー インターン
滋賀大学教育学部2年生

インタビューを終えて:私の住む滋賀県に隣接する京都でこのような歴史あるフリーペーパーがあることを初めて知った。ただ単に学生に情報を届けるだけではなく、学生が作り手として成長できる媒体であることが大きな特徴であると感じた。私自身もフリーペーパーの制作に携わっており、「読者に読んでもらうためにはどのようなフリーペーパーにすればよいか」と悩むことがある。それに対して「自分が楽しい、やってみたいと思うことをすればいい」と答えていただき、視界が開けたような気持になった。また、後から後から溢れる温かなエピソードからは、40年以上関わった人々に愛される秘密を垣間見た気がした。

本連載企画について:メディア関係者と広報PR関係者のための業務効率化クラウドサービスを開発する株式会社クロフィーでは、両ユーザーに向けた本連載企画を行っております。編集は庄司裕見子、サポートは土橋克寿

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