元朝日新聞社記者が語る、広報の面白さとは?【テックタッチ流PR戦略】

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朝日新聞社で記者や女性向けWebメディア編集長を務めた後、ジーニー社に転職した中釜由起子さん。ブランド統合プロジェクトや新組織の立ち上げに携わり、事業の成長に貢献する仕組みづくりを成功させました。現在は、ノーコードのデジタルアダプションツール(DAP)を開発・提供するテックタッチにてHead of Marketing / PRとして活躍する中釜さんに、広報業務の魅力などについて話を伺った。(聞き手&執筆:福永ひより 連載企画:学生が迫る、広報PRの担い手の素顔)

学外活動の充実が学びの源

ーー学生時代はどのようなことに注力されていましたか?              

大学では、インターンやアルバイト、サークル活動、そしてNPOの立ち上げに注力していました。最も長期にわたって取り組んだのは、国会議員の下での学生インターンで、これは約3年間続けました。他にも、長野県のNPOで住み込みのインターンを経験し、そこでは地元自治体の方々に地域の政策提言を行う支援に携わりました。また、外務省でのインターンでは、外務省内部向けの広報誌のような媒体を制作するお手伝いをしていました。

大学では、メディアに関するサークルを立ち上げ、都内の他大学の学生たちと連携しながら活動しました。このサークルのテーマがメディア研究だったことから、マスコミやメディア業界への興味が深まっていきました。

ーー今のキャリアを形成されていく上で、きっかけになった出会いや出来事はありますか。

きっかけとなったのは、大学で開催されたマスコミセミナーです。このセミナーには朝日新聞と日本経済新聞から講師の方が来られ、私は後に朝日新聞に新卒入社するのですが、この二人の存在がマスコミ業界、特に新聞社で働きたいという強い思いを芽生えさせました。

週刊誌記者からキャリアスタート

ーー朝日新聞社でのご経験がその後のキャリアにどのように役に立ったのか、具体的にどのようなお仕事をされていたのかを伺いたいです。

最初は週刊朝日という週刊誌で約5年半ほど勤務し、毎週、様々な事件現場を取材したり、文化人の取材も担当していました。新聞社の場合、政治部や社会部など、専門分野ごとに分かれていきますが、私はあらゆるビジネスの基礎を経験した後は経理や営業を経て、大学生向けの商品企画に携わりました。商品企画を行う際には、マーケティングの知識も必要だったため、勉強を重ねながら取り組んでいました。

旬なテーマを取材することも楽しいですが、私は特に0から1を生み出すプロセスに魅力を感じました。新規事業開発の部署に移ってからは、未就学児向けのロジカルシンキングの教材やプログラムなどを開発しました。新規事業の規模が徐々に大きくなり、女性向けのWebメディアを立ち上げて編集長に。メディア業界では、ジャーナリズム的な観点から正しい情報を届けることが重要とされる一方で、私は新しい価値を創造することに強い関心があり、これに関連する業務に多く携わっていました。

ーー何かを0から創るという事は、普段どのようなところから見つけていったり、意識して発見されるんですか。

世の中にまだ存在しないものを探し出すことを意識していました。例えば、未就学児向けのロジカルシンキング教材は、そもそも新聞社の中ではメディアや教材が少なく、子どもたちはまだ本を読まないし、文字も読めない。そうした中で、体験型のプログラムを発展させることができると考えました。既存のものと未だ存在しないものを組み合わせ、発想を転換して企画を進めていくことで、「0から1」を生み出しやすくなります。

その後、いくつかのアイデアの方向性が定まったら、市場性が期待できるところに事業を立ち上げる、という流れで進めていました。

広報職で見つけたやりがい

ーーキャリア2社目のジーニー社、そして現在のお仕事の概要、印象に残る出来事をお伺いしたいです。

ジーニー社では、ブランディングや広報、マーケティング、営業、事業開発など、多岐にわたる業務を経験しました。その結果、広報の仕事が最も経営にインパクトを与える可能性があると感じ、もっと極めたいと感じるようになりました。

そこで2023年4月、テックタッチにPRの責任者として転職しました。会社の中では、職種ごとに経営目標達成に向けた役割がありますが、広報の役割は、企業のイメージを向上させ、社会に認知を広げることです。例えば、「あの会社はこういうことをしている」と認識されることで、マーケティングや営業、事業開発が円滑に進む基盤を作れると考えています。そのような思いから、テックタッチに入社しました。

現在は、経営と連動した広報戦略を設計し、年間計画の立案から日々のメディア向け提案まで幅広く業務を行っています。また、2023年10月からはマーケティング部門の責任者も兼務しており、広報だけでなく、どのようにして世の中の人々にテックタッチを知ってもらうかというマーケティング戦略やマネジメントにも携わっています。チームメンバーとともに、それぞれの目標に向けて日々活動しています。

ーーなるほど、では経営と結びつけた広報や、チームでの戦略を立てる際などに普段から気を使っている事、PR戦略を立案する際に特に重要視している点などはありますか。

経営陣とのコミュニケーションは、広報活動の中で特に重要です。特に社長とのやり取りが大事で、経営陣全体の考えを理解することが不可欠です。広報の仕事では、プレスリリースを作成し、メディア露出を増やすことが重要視されますが、経営者たちは、どうすれば会社の売り上げが持続的に成長し、社会に価値あるものを提供できるかという視点を持っています。そのため、経営陣の思想やビジョンを理解し、それに基づいた提案をすることが求められます。私も会社の事業内容を深く学び、広報としてどのようにサポートできるかを考え、PR戦略を立てられるよう心がけています。

PR戦略としては、私たちの会社の場合、デジタルアダプション(DAP)という新しいカテゴリーのサービスを、いかに世の中に広め、生活を向上させるかをメッセージとして打ち出しています。メッセージを明確にしたうえで、具体的な活動計画や数値目標に落とし込みます。例えば、どのメディアに露出するか、どのようなメッセージを届けるか、記者にどの程度コンタクトを取るか、またメディアに掲載された後、それが何人に見られているかなどを数値で追跡します。

PRはしばしば数値化が難しいと言われますが、実際には多くの活動が可視化できるようになっています。記事の効果や露出の範囲、それが会社にどの程度貢献しているかを数値化し、それを経営陣が理解しやすい指標に変換します。このプロセスを経て、戦略や計画を作成し、広報活動を展開しています。

未来を見据えたメディア戦略を目指して

ーー今の市場変化に広報戦略が柔軟、迅速に対応するために日々気を付けている事はありますか。

まずはニュースを読むことが大切です。ただ単に読むだけではなく、どのメディアが自社のメッセージを発信するのに適しているか、どの記者に書いてもらうべきかを意識しながら読むことが重要です。多くの情報が見落とされていることがあるので、広報として、戦略的に見極める工夫をしています。

また、現在のニュースだけでなく、今後どのようなテーマや特集が求められるかを先読みすることも重要です。将来の流れを見据えながら、次にどんなニュースが来るのかを予測し、それに合わせて社内でどう対応できるかを考え、改善策を提案します。例えば、プレスリリースを出す際にも、伝えたい内容があっても、そのまま書くのではなく、メディアに響く形でメッセージを変えるべきかを検討します。

こうしたニュースの読み方から始まり、経営者や顧客など様々な関係者とのコミュニケーションを通じて戦略を練り、実際にメディア露出を獲得するまでのプロセスを意識して行っています。常に先を見越した活動を心がけ、広報戦略を構築しています。

チームで結果を出すために

ーーありがとうございます。では、次に日々仕事をする中で1番時間を割いてるタスク 、企業全体への貢献の結びつきを感じる時をお伺いしたいです。

時間を多く割いているのは、チームのマネジメントです。PR業務には、プロフェッショナルとして個人で活躍する役割と、組織が大きくなった際にチーム全体で成果を出す役割の2つがあると思います。私は後者の役割を担っており、チームメンバーの運用担当者など、数名と協力しています。メンバーが目標に向かって仕事をしやすくするために、次に何をすべきかを相談することが多いです。

PRとマーケティングの分野において、チームがスムーズに仕事を進められる環境を整えることが、私が1人で頑張るよりも大きな成果を上げるために重要だと考えています。

ーー普段からチームメンバーと、一対一でコミュニケーションを取る時間も設けているんですか。

そうですね、マネジメントの役割として、まずは活動にふさわしい計画や戦略を立てることが最も重要です。チーム全員がその計画に向かって動くため、その後は各メンバーがスムーズに動ける環境を整えることが求められます。各人の役割は異なるため、しっかりとコミュニケーションを取り、相談や打ち合わせを重ねながら仕事を進めていくことが大切だと考えています。

ーーちなみに、テックタッチに入社し、例えばSlackが賑やかだとか、社内の部活動とか、社員の方々の関係性でいい意味で驚いたことがあればお伺いしたいです。

そうですね。会社の人たちがすごく仲が良いというのにびっくりしました。こんなに自分の会社を好きな人たちがいるんだなっていうのは、いい意味で驚きました。

私は映画とランニングと料理、子育てに関連した部活動に入っています。先日も料理やお酒が好きな人達が集まりながら楽しい時間を過ごしました。とてもフラットな雰囲気の中で、親しく交流し、リラックスしながら過ごせたことが印象的です。

もちろん、仕事に対する目標や成長意欲も大切にしていますが、こうしたリラックスした場で、仲間と過ごせる点もとても魅力的だと感じています。

トレンドを意識したPR戦略を

ーー次にPR活動で今後重要になっていきそうだなと思うトレンドと、今後どのようなスキルが必要になっていくかを伺いたいです。

AI活用やメディア動向を把握することは非常に重要ですね。例えば、自社のホームページへの訪問者数なども簡単に確認できるため、それを活用すれば、どのような企画が特定のターゲットに届くのかを理解しやすくなります。このようなデータを基に次の企画を立てることができるので、より効果的なアプローチが可能になると思います。また、届けたいメッセージが実際に伝わっているかを確認できることも重要です。リアルなコミュニケーションと同様に、データを通じて多様な方向にアプローチできることが、より良い成果につながると思います。

ーー最後に、中釜さんが改めて感じる広報PR業務の面白味と、これからテックタッチのHead of PRとして挑戦していきたいことはありますか。

広報の魅力は、経営に直接貢献できる点や上流の動きを作り出せるところにあります。そのポテンシャルは、世の中ではあまり知られていないかもしれません。実際には専門職として幅広い役割を担っています。特に経営陣には、広報の重要性やその役割を十分に理解されていない場合も多いと思います。広報に力を入れることがどれほど良い結果を生むかを知ってもらえると嬉しいですね。

また、広報の仕事には、掲載された際の反響を直接感じられることや、自分自身が新しいことに常に挑戦できる楽しさもあります。Head of PRとしての今後の目標は、観光庁や自治体、企業などに、テックタッチの存在を広めたいと思っています。単に認知を広めるのではなく、たくさんの人達がテックタッチの価値を実感し、喜んでくれることが何よりも嬉しいです。数年後には、「テックタッチっていいよね」と多くの人に言われるようになり、その数と信頼が今の何倍にも増えることを願っています。

中釜由起子

中央大学法学部卒。朝日新聞社で記者・編集、新規事業担当、Webメディア「telling,」創刊編集長などを経て、2019年に株式会社ジーニーへ。マーケティング、全社広報・ブランディング統括などに従事。2023年4月にテックタッチにHead of PRとして入社。2023年10月より、Head of Marketing兼務。

聞き手&執筆担当

福永ひより

株式会社クロフィー インターン
広島大学文学部2年

編集後記:今回のインタビューを通して、特に、広報の役割が単なるプレスリリース作成やメディア露出にとどまらず、企業の経営戦略と深く結びついているという点が印象的でした。インタビューの中で、中釜さんは、広報活動が経営陣とのコミュニケーションを通じて、戦略の一部として機能すると語っていて、週刊誌の記者としての取材経験や新規事業開発に取り組んできた姿勢が、今のPR業務に活かされていることがよく分かりました。
中釜さんがPR業務に対して非常に情熱的であり、単なる広報活動にとどまらず、経営に貢献するPRを目指していることが強く伝わってきました。広報業務の面白さと難しさ、そしてやりがいをとても感じたインタビューでした。

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