東京スポーツやBuzzFeed Japanを経てフリーへと転身した徳重辰典さん。「人の気持ちに刺さり、人々を笑顔にする」ことを大切にして取材活動や記事の執筆を行ってきたという。芸能人を中心としたインタビュー相手の下調べを入念に行い、独自の質問で相手の本音を引き出してきた徳重さんに、今回は話し手になっていただいた。(聞き手:佐々木健太 連載企画:学生が迫る、メディアの担い手の素顔)
興味のあることを仕事に
ーー東京スポーツやBuzzFeed Japanといったメディア企業を経験されていますが、そこに至るまでの経緯を教えて下さい。
もともと、メディアに何か関わりたいと思っていました。最初は出版社を受けたのですが、準備不足で落ちてしまって。といっても3社くらい。当時を振り返ると、もっと頑張っていればよかったと後悔しています。
メディアで他に受けたのはスポーツ紙1社だけで、たまたま受かったのが東京スポーツですね。雑多に雑誌を読んでいたので、スポーツから芸能までと知識の幅自体は結構持っており、そこを活かせるかなというのが志望動機でした。
東京スポーツでは「東スポWeb」というニュースメディアを立ち上げ、もっとウェブメディアについて学ぶためBuzzFeed Japanへ転職しました。スポーツや芸能、さらにはアイドルの記事を多く書いていました。その後、大手2社で得たノウハウを持ち、フリーとなり、現在に至ります。
ーー昔からスポーツや芸能が好きでしたか。
スポーツが好きで、ずっと「Number」の読者でした。「Number」はサッカー、格闘技、F1と色々なジャンルを扱っていましたし、多くの知識、文章のスタイルも知ることができました。
僕が大学生の頃って、DAZNやスマートフォンもなくて欧州サッカーはWOWOWしかありませんでした。だからスポーツ中継を見るときは主に地上波で、サッカーや野球、後はプロレスや競馬など、中継のあるスポーツがあれば何でも見ていましたね。「Number」以外にもマンガ、週刊誌、専門誌と週40冊は雑誌を読んでいました。そこでメディアの業界に興味を持ったことが、メディアを目指したっかけともいえるでしょうか。
ーー多くのインタビュー記事を執筆されていますが、印象に残っているインタビューはありましたか。
ピエール瀧×リリー・フランキー「サブカル畑の人はもれなくダメだった」 白石和彌監督の映画『サニー/32』で、犯罪者のコンビを演じる www.buzzfeed.com
緊張もしたけど一番やってよかったなと思うのはリリー・フランキーさんとピエール瀧さんの対談ですね。学生の頃から出演されているものから、雑誌のインタビュー記事まで色々と目を通してきました。もともとお二人のファンで、単純にお会いしてみたかった。
迫力のあるお二人で、打ち解けるまでに時間がかかりました。取材開始時は仏頂面で、テンパってしまって。
途中までは「このインタビューやばいかな」と思っていましたが、しばらくしたら打ち解けたのか、お二人が気遣ってくださって話がはずんで面白かったです。もともとお二人が仲が良いことは知っていたので仲睦まじい様子が間近で見られたのは良かったです。
リリーさんの考えが、自分の近いっていうか、「正しいか正しくないとかで白黒はっきりつけたりする世界があんまり好きじゃない」という言葉は印象的でした。詳しくは検索して記事を見てください。
あと印象に残っているインタビューは、元女性アイドルグループのメンバーでインタビュー中に、突然「トイレに行きたい」と中座したことですね。インタビュー15分しかないのに!慌てて、共演の有名女優さんがフォローしてました(笑)。
中座したコは問題児としても知られていて、らしいなと思いました。初めての体験でしたが、そういった記事には書けない変な場面を見られるのもインタビュー、取材の面白さではないでしょうか。
ーー数多くの方にインタビューをされてきたと思いますが、失敗などはありましたか。
色々ありましたけど、操作ミスで音声が録音されていないことがありました。原稿すべてを自分の記憶力をフル回転で書きました(苦笑)。音声がないと記事を書くのにとても苦労します。だから、学生さんとかライターの初心者の方は音源を2つ、特にICレコーダーで録音することをおすすめします(笑)
最近、スマホで録音する方も多いのですが、スマホ1台じゃなくてICレコーダーにも録っておくと間違いはないかな。
他に、インタビューで話が盛り上がらないこともありましたけど、話の盛り上がりイコール記事が面白くなることではありません。そこがインタビューの面白いところであり難しいところですね。多少空気が悪くなってもいかに相手の魅力、知られてない部分を引き出すかが鍵だと思います。
1億PV達成のwebサイト立ち上げ
ーーBuzzFeed Japanでは、主にどのようなお仕事をされていましたか。
日本版立ち上げの半年後という、早い段階でライターとして入りました。
その後、政治や経済などのハードなニュース以外のスポーツやエンタメ、ネットの話題を扱うなんでも屋のソーシャルニュースチームのデスクもやりました。
入社したのが2016年5月で、その2ヶ月後に、リオオリンピックがありました。当時スポーツを書ける人間は会社にいない。かと言ってリオに取材にも行けない。なので日本でテレビを見つつ、ネットやSNSで海外の話題を拾い、毎日3本執筆をしていました。時差があるわけですから、夜中1時とか2時に起きて、原稿書いて夕方まで書いて寝るみたいなことをしていたら、結構数字も取ることができました。
スラロームの男子カナディアンで銅メダルをつかんだ羽根田卓也の銅メダルの一報、へ行ってないのにヤフトピ何度か掲載されましたね。
もともとBuzzFeed Japanにはそういうスポーツのネタをかける人がいなかったということもあって、自分の得意分野を活かすことができましたね。その後は芸能を中心に多くの記事の執筆を行っていました。動画番組の企画なんかもしましたね。
ーーインターネットメディアは1PVあたりの値段が安いと聞きますが、どのように東スポで1億PVを達成されたのかそこに至るまでの経緯を教えて下さい。
東スポはそもそも新聞の記事を作っていたので、その記事をある程度使えるものに流用しつつデジタル化していきました。それにプラスして、自分でオリジナルの記事を書いたという合わせ技です。
大事だったのは配信先ですね。ポータル、当時はYahooやivedoor、更にはグノシーやスマートニュースなどへの記事提供を早い段階から取り組んでいたので、先行アドバンテージで数字は良かったかなと思います。そういうものを合わせて1億PVにつながっていきました。
古い会社でウェブに理解がある人がほぼいない中での作業でウェブ制作会社の選定、Yahoo!との交渉と立ち上げ作業はほぼ自分でやっていて、かなり苦労しました。、それだけに1億PV達成した際は嬉しかったですね。
ーーいろんな媒体に提供することが大事ということですか。
PVで言うと、そうですね。ウェブメディアは今、どこも苦労していますけど、広告の単価がめちゃくちゃ安いので、ビジネスとしてなかなか成り立たないと言われています。そうするとサブスク(定額制)だってなりますけども、なかなかサブスクがうまくいっているところってイメージがないですね。テキストだと日経新聞くらい。
では次にどうしようか、っていう時にリアルイベントをやろうとなる。ただ残念ながらこのコロナの影響でリアルイベントもできなくなってしまっている。そういう中でWebメディアのマネタイズはますます難しくなっていると思います。
だから、生半可な考えでウェブメディアをスタートさせると失敗しますね。実際、Webメディアが本業のところは潰れてないけど、オウンドメディア系は潰れている。
ーー1億PV達成までに困難はありましたか。
新聞社だからというプライドで最初はネットに記事を出したがらなかったけど、やっぱりヤフトピ(Yahooトピックス)のように明確に反響が届くものをしていくと、記者の方から徐々変わってくる。マネタイズができてくると会社も上層部の気持ちも変わって来ましたね。
これは何につけてもそうだけど、やみくもに「俺が正しい」って言ってもしょうがないわけです。だって向こうはそれを知らないわけだし、共通言語が違う。ただ相手がメリットに感じるものがあれば、積極的になってくれる人もいるっていうことを学びました。
(2019年のブラジル取材にて)
芸能記事と政治記事に差はない
ーー芸能記事は政治や社会などのいわゆるハードニュースとは違うと思うのですが、書き方に違いはありますか。
僕はないと思っています。そもそも政治記者と芸能記者が行っていることって、そんなに変わりはないのだけども、なぜか芸能ニュースを下に見る傾向がありますね。
実際は、政治家のあらを探すのと芸能人のあらを探すのも作業としては同じですからね。対象が違うだけで。そのために夜討ち朝駆けをするとか、張り込むとか、情報を聞き出すために付き合いでお酒を飲むとかもやるわけでしょう。政治でも芸能でも公式発表より先に情報を出すことがスクープと言われるけど発表の一日前にその情報を伝えることって意味ないよなと思ってます。
結局、政治記者と芸能記者がやっていることも本質はあまり変わらない。だから、線引きはしない。優秀な記者、丁寧な取材があれば政治だって芸能だって面白い記事は出てくる。伝えなければいけないことだってどのジャンルもある。
ハードニュースがたまに流れても、今の若い人にとってはトピックの一つ。TwitterやLINEのタイムラインで流れてくる芸能やスポーツのニュースと同じ扱いなわけで差はない。その中で書き手、送り手側のメディアだけが何かちょっと違うものだと線引きをしているような気がしますけどね。
ーー新聞記者が芸能記事を批判している印象がありますが、そのようなことは現場にいて実感しましたか。
やはり、なにか違和感はありましたね。でもPVとかシェアをとるのは、芸能記事とかコンビ二記事のほうで、よっぽど多くの人に読まれるわけですよ。だから紙媒体から来た人は結構ショックを受ける。新聞って全体の売上はわかるけど、個々の記事の反響ってなかなかわからないですから。それがウェブだと数字でわかってしまう。
そこで「ジャーナリズムだから読まれなくても価値はある」と思うか「いや、読まれ方の違いがあるからもっとこう工夫していけば読まれるのではないか」って工夫するかが、今後、Webで使える人か使えない人の差になると思います。
芸能と社会はそんなに違いはないような気がするけれども、Webと紙は明確に違っている。例えばテレビで同じ事をラジオでやってもうまくいかないし、ラジオと同じことをテレビでやってもうまくいかないことと一緒。やり方が違う。常識が違う。物理法則が違う。レガシーと言われるメディアである新聞社や雑誌は、まだその価値観は全然わかっていないと思いますね。
若い記者は分かっているかもしれませんが、紙媒体のメディアで決定権持っている人間が、全然その辺の価値を分かっていないので、今後どこも紙媒体は苦しくなっていくのではないでしょうか。紙媒体は今すぐにでも、自らの弱点に目を向けて変えていく必要があると思いますね。
興味を惹きつける記事執筆の極意
ーー取材対象がまだ知名度のない方や有名な方など幅が広いと感じたのですが、執筆のターゲットはどのように決めているのですか。
依頼されて取材することがそんなに多くなかったので、自分で面白いと思ったものをやるスタンスでした。その中でもアイドルの記事は多く書いていますし、アイドルのライブや曲も聞いていますけど、根本的にはあんまりオタク気質ではないですね。結局人間にしか興味がない。
別に、人気がある、大手だからやるという感じではないし、メインの子を扱わなくて、日陰の子をやるほうが他の媒体で扱ってないし、ファンとしても嬉しいだろうからそっちの方が本当は大事だなと思っています。
あとは読まれないと意味がないわけだから、読まれる工夫は自分なりにします。それが、刺さってヤフトピなどに掲載されたときは嬉しいですね。
ーー読まれない記事と読まれる記事には違いがありますか。
根本的には運です。SNSはインフルエンサーに刺さるか刺さらないかじゃないですかね。よくSNSで流行っている記事を読むとわかるのですが、誰かインフルエンサーが回していますね。
これは、Webのあんまり好きじゃないところですけど、そのインフルエンサーと書き手が友達だったりする。別にお願いをしているわけじゃないけれども、友達だし何となくシェアしている。
Web業界の影響力がある人たちが互助会みたいに互いの記事をシェアし合う。インフルエンサーがシェアしているから良い記事だと読み手も勘違いしてシェアする。もっというと読まずにシェアする。だから本当はそんなに面白くないような記事も結構バズっていますね。
インフルエンサーの記事の拡散力につながる傾向はますます強くなっている。また受け手側の、読解力も下がっているのは事実としてあると思います。「誰々さんがいい」っていうものが売れるのが、インフルエンサーのマーケティングの一番いいところですが、それって裏を返せばインフルエンサーの意見に流されている人が増えているってことだと思います。
ーー様々な取材をされてきたと思いますが、取材をする際に気をつけていることはありますか。
きちんと下調べをすることです。当たり前ですが、時間もかかるし、特にフリーなんかそうだけども、1本当たりの原稿に対して手をかければかけるほど結局儲かりません。
記事の質イコール執筆料っていうわけでもなく、最初に提示された価格で終わりですからね。原稿料に1万円プラスするようなところはあり得ないので、だからそこは記者ごとのプライドに懸かっているというか、本当気持ちの問題です。
下調べでは、他社を含め過去のインタビューをできる限り見るようにしています。それはもちろん時間もかかりますが、他の一面を引き出すために重要なことではないかと思っています。それが、インタビューの成功にもつながってくるので。
ーー読者にはどのように感じてほしいと思い、記事を書いていらっしゃいますか。
あまり批判的な意見を書かないようにしています。以前インタビューした映画「銀魂」などで有名な福田雄一監督が、「みんな人の怒りを煽るのは簡単で、笑わせることが一番難しい。だからそういう作品制作を心がけています」と話をしていて、全くその通りだなと思いました。
笑わせるのってやっぱり大変です。だからこそ、笑わせたり感動させようと思う記事を作りたいなと思っています。感動とか、そういう何か呼び起こせるもの、プラスになるものは難しいですが、今後も作っていきたい。逆にマイナスの感情に動くものはPV多く取れるし、楽をしてもできるけど、嫌な人間になりそう(笑)。やはり感動や笑いになる記事をたくさん届けたいです。
ーーフリーの今、これから挑戦していきたいことは何ですか。
インタビューをずっと続けたいです。いいインタビューしていきたいですね。それは、WebのPVとは逆、少ない人に刺さるものでもいいから人の気持ちを変えられるものを作りたいです。あとは、やっぱり人を笑顔にするとか、そういう記事を書きたいです。
本当に政治とか、主義主張とか興味がないので。
徳重 辰典のポートフォリオ メディアの担い手のための審査制プラットフォームChrophy(クロフィー):ポートフォリオ作成からAI文字起こしまで chrophy.com
徳重辰典
福岡県出身。大学卒業後、東京スポーツに記者として入社。自らがリニューアルを手掛けた「東スポweb」は2015年に1億PVを獲得。その後、BuzzFeed Japanに転職し、記者、ニュースデスクを担当。インタビュー記事を中心に、これまで多くの媒体に記事を執筆。その後、フリーに転身し、今に至る。過去記事のポートフォリオはこちらから。
聞き手&執筆担当:佐々木健太
株式会社クロフィー インターン
東京都市大学 メディア情報学部 社会メディア学科3年インタビューを終えて:徳重さんを取材させていただき、インタビューする際の下準備の大切さや人々を笑わせる記事を書くことの大変さなど改めて学ぶことも多くありました。途中、なかなかインタビューをうまく行えないこともありましたが、今後、徳重さんに頂いた貴重なアドバイスを活かしていきたいです。
本連載企画について:
記者ら、メディア関係者のための業務効率化クラウドサービス『Chrophy』を開発する株式会社クロフィーでは、『学生が迫る、メディアの担い手の素顔』と題した本連載企画を行っております。編集は庄司裕見子、カバーイメージは高橋育恵、サポートは土橋克寿。
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