映画の魅力とは?〜映画一筋20年弱の専門ライターが世界に見てほしい作品〜

アメリカへ留学後、日本で映画ライターとして活動されている杉本穂高さん。映画を通して学んだという、「カメラが嘘をつく」とはどういうことなのか。なぜ、目線を変えることが必要なのか。杉本さんが映画を通して伝えたいことは何かを教えてもらった。(聞き手:西川花実  連載企画:学生が迫る、メディアの担い手の素顔)

(米国時代の映画関係のイベント・パーティにて:中央が杉本さん)

◉映画ライターの仕事とは

ーー映画ライターになろうと思われたきっかけは何でしょうか?

実は最初は、映画を作る方になりたくて、高校卒業後に映画の専門学校へ行きました。そこで学んだ結果、監督になりたいのか、それとも別の役職になりたいのかを色々考え、一番なりたいのはプロデューサーだという結論になり、プロデューサーになるならビジネスを学ばなければと思いました。しかし、日本国内には映画ビジネスを教える学校がなかったため、2004年12月から2010年12月まで6年、アメリカのロサンゼルスへ留学しました。

帰国後、日本でのツテもないし、映画関係の仕事をするならどうすればいいかなと悩みながら、普通の仕事をしていました。その時に、アメリカで映画について学び、アメリカの知見もある程度あるので、役に立つことが書けるのではないかと思い、ブログで情報を発信していくところから始めました。ブログを書いていた縁で、本厚木市のミニシアターの立ち上げもやらせていただいたり、それと並行しながらライター業も増やしていった感じです。現在は映画館の仕事をやめて、ライター一本でやっています。

ーー映画ライターは、普段どのように取材が進行していくのでしょうか。

新しい映画の公開が近づくと、配給会社や宣伝担当が監督・俳優のスケジュールをおさえながら取材対応の予定を組み、色々な媒体やライターへ声を掛けていきます。そういった基本的な流れがある中で、逆にライター側からインタビューをお願いしたり、メディア媒体の編集部からインタビュー担当を打診されることがあります。

ーーコロナ後の仕事の進め方についてお聞きしたいです。

コロナ後はzoomでの仕事が増えました。コロナ以前は、海外からわざわざ監督が来日し、ホテルの一室で缶詰状態になってインタビューを行う場合もありましたが、現在は私と海外の監督の仕事場がzoomで繋がれるので、ある意味楽になりました。

しかし、公開予定だった作品が延期されたりお蔵入りになってしまったことで、記事を書く機会が減ってしまったことも事実です。やはりコロナの影響で、世間の関心が映画に向きにくい時期ということもあり、映画産業自体も打撃を受けましたが、それに伴って映画ライターにも影響がありました。

ーーインタビュー時に大切にされていることはありますか?

インタビューは究極的にコミュニケーションなので、きちんと相手の話を聞くことです。
何人かで団体でインタビューをする時もありますが、なかにはあまり話を聞かず、事前に用意した質問をただ消化しにきているだけの方もいます。そのようなインタビューの仕方をすると相手に伝わるため、あまり面白い回答は引き出せないと思います。

あとは、具体性のある質問をするようにしています。「あなたにとって愛とは何ですか」のような質問よりも、「このシーンのこの俳優さんの演技はどういう意図だったのですか」など、なるべく具体的なことを聞くようにしています。その方が深い話に繋がりやすいと思います。

(米国時代の映画関係のイベント・パーティにて:左が杉本さん)

◉カメラが嘘をつく

ーー映画を好きになったきっかけを教えてください。

中学3年生の頃、部活を引退し時間ができたので、なんとなく近くのレンタルビデオ屋さんに行って映画でも借りてみようと思ったことです。まず、棚にある新作は全部見ました。当時は映画といえば基本的にアメリカ映画で、僕の行っていたお店も地元の小さいところでアメリカ映画が多かったです。

中学を卒業して高校生になるとアルバイトを始め、貯めたお金で映画館にも行けるようになりました。ミニシアターで公開されるようなこだわりの強い作品など、様々な映画に触れるうち、視野がどんどん広がって行きました。

ーー杉本さんがお考えになる映画の魅力を教えていただきたいです。

世界を知るための一番いい教科書だと思っています。様々な国の様々な映画を見ていると、その国の人に会った時の話のきっかけにもなるし、世界を身近に感じられるとても良い教材です。

ーー映画を通して学んだことはありますか?

高校時代、学校よりも映画館で過ごす時間が長かったので、映画館が学校代わりと言っても過言ではありません。特に映画から学んだことは大きく2つあります。一つは、報道やニュースで見るその国の印象やステレオタイプのイメージも、映画を通して見ると全く異なる姿が見えることです。

「ニュースで見るほど、世の中って、世界って単純じゃないんだ」ということを教えられました。例えば、僕はイランの映画が好きですが、イランという国は、例えば核開発疑惑とか報道ではわりとネガティブな部分が取り上げられて、なんとなく怖い国というイメージもある思います。しかし、映画で見るイランの人たちはすごく優しく、ハートウォーミングな作品が多いです。

あと一つは、映像は決して真実を映しているとは限らないこと、むしろ嘘をつくのに適した部分もあることを学びました。カメラで撮った映像は、どういう風に切り取るかによって印象って変わってしまいます。全く同じ事実だったとしても、クローズアップなのかフルで撮るものなのか、見上げる映像なのか、下から覗き込む映像なのかによっても、全く違う印象にできます。

ーー嘘をつくのに適した部分とは具体的にどのような部分ですか?

これは映画ではありませんが、湾岸戦争の時、戦争の酷さを伝えようと油まみれの鳥を映して捏造した映像がありました。しかし、映像だけで捏造だと気づける人はほとんどいなくて、真実だと思い込んでしまう。そのくらい、カメラで撮るということは「真実ではないことを真実である」と保証してしまう、嘘をつきやすいものであることを、ドキュメンタリー作家の人から教わりました。

ーーどなたから教わったのですか?

直接教わったわけではないですが、森達也さんというオウム真理教などを撮っている監督の作品はカメラは嘘をつきやすい道具だと教えてくれます。この方は、映像の嘘と真実の境目をテーマに作品を作っておられています。例えば作曲家である佐村河内守さんの、週刊誌で騒がれた「ゴーストライター問題」の真実に迫る作品では、本人に作曲ができるのかできないのかを突きつけ、最後に本人が作った曲を演奏させるシーンがあります。それを見ると、佐村河内守さんが作曲ができるように見えますが、その曲を彼が本当に作曲した保証は実は映像の中にはありません。このように、「嘘と本当の曖昧さ」を森達也さんは描く人なのです。

(映画館時代)

◉これからの映画

ーー私は今韓国の大学で文化について勉強しています。韓国の映画と比べて日本の映画で足りない部分は何だと思いますか?

日本映画の産業全体の話をすると、日本国内でヒットすればある程度商売になります。そのため、「国内で売れればいい」という姿勢で作っている映画が多いことは事実です。韓国と比較すると、韓国は日本よりも人口が少ないので、国内市場に向けてだけ映画を作っていてはあまり商売になりません。だから、国際的に通用する作品を作らざるをえなかった結果、Netflixなどで韓国の映画やドラマが大人気になっているのではないでしょうか。それは作り手の実力やセンスの差というより、目線の持ち方だと思います。

ーーやはり日本に足りていないことは「目線を変える」ことですか?

国内だけではなく、国際的な市場を見据えることです。そのためには、現場の作り手の人たちだけではなく、映画を売る人やPRする人含めて、意識を変えないといけません。簡単にできることではないですが、これから国内市場だけでは立ち行かなくなる時代になるので、今のうちに目線を変えて、世界で戦える作品作りを本気で考えていかなければない時期になってきていると思います。

今のは実写映画の話ですが、アニメ産業では昔から国際社会で戦ってきた歴史があるので、ある程度できています。韓国でも日本のアニメを見ている人はいると思いますが、それが今まさに北米市場などでも華開こうとしている状況です。

ーー他の国から学んで欲しい部分はありますか?

日本が貧しかった戦後すぐの時代は、国内全体で様々なことを外国から学んでいたはずです。今はそういう姿勢を失いかけている気がします。日本の漫画やアニメは海外の要素を学んだ上で、日本式にアレンジして作っているから面白いのです。今韓国がやっていることは、アメリカの脚本の作り方を学んで、日本の漫画の面白いところを吸収して、韓国独自の人情味溢れるドラマにしているわけです。『イカゲーム』はまさにそのような作品だったと思います。日本も、その姿勢をもう一度思い出していただきたいなと思います。

ーー世界の人に見て欲しい日本映画、アニメ映画はありますか?

時代劇などはすでに有名なので、アメリカに住んでいる時、現代劇をあえてすすめるようにしていました。特に是枝監督の『誰も知らない』や李 相日監督の『フラガール』、岩井俊二監督の映画などはウケが良かったです。日本の映画は泣ける作品が発展して、泣かせる演出、手法が発展していると思います。自分たちでは気がつかないけど他の国の方に見せた時に気が付くことがあります。自分たちの文化を知る上でも、日本映画を見せて反応を聞くことは勉強になります。

(アメリカ時代にインターンしていた会社のボスが来日:左が杉本さん)

◉これからの若者に望むこと

ーー若者に映画を見て学んでほしいことはありますか?

映画って世の中を映す鏡だと思います。世の中の広さとか複雑さとか、一筋縄では行かない部分を実感して欲しいです。物語を通して理屈を超えて実感させてくれるものが映画だと思います。わかりやすい映画を見てスカッとするのもいいですが、少し難しい作品を見て頭を悩ませてみるのも楽しい経験になります。

ーー今の若者に足りてないものは何だと思いますか?

大きな夢を語る子は減ったと思います。日本社会全体の将来が見通しくらい中、大きな目標を持ちにくいことは理解しているつもりです。でも、例えば、ボールを投げる時、遠くに投げる意識をもって投げないと失速してしまうように、人生も最初から決めてかかってしまうと、小さくまとまりすぎてしまうと思うんです。人生って、最初から10までしか進まないと決めると7、8くらいまでしか進めず、30くらいを目指しておくとやっと10にたどりつけるくらいだと思います。多少行儀が悪くてもいいので、大きなことをやって欲しいです。僕自身、映画監督にも、プロデューサーにもなっていませんが、楽しい人生を送っているという自信はあります。映画製作者になると意気込んで人生のボールを投げたらライターという場所にたどり着いたということです。失敗してもいいので、大きな夢を語って、それに向かって努力してほしい、そうすることで初めて自分の限界もわかるし、自分に向いているものが何なのかもわかってくるのだと思います。 杉本 穂高のポートフォリオ メディアの担い手のための審査制プラットフォームChrophy(クロフィー):ポートフォリオ作成からAI文字起こしまで chrophy.com

杉本穂高
1981年、神奈川生まれ。映画ブロガー・ライター。アメリカで日本映画の配給業務に携わったのち帰国。次世代の映像メディアとビジネスについて考えるブログ「Film Goes With Net」の管理人。 元アミューあつぎ映画.comシネマ支配人。
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聞き手/執筆 西川花実
株式会社クロフィー インターン
延世大学 グローバル人材学部3年

インタビューを終えて:私自身韓国で生活をしていて日本について知らないことが多く映画やドラマも自分が好きなもの、興味があるものしか今まで見ていなかったがインタビューを終えて映画をみることで自分自身が学べること知らない世界を知ることができることを知りこれから映画に対しての考えが変わりました。

本連載企画について:メディア関係者と広報PR関係者のための業務効率化クラウドサービスを開発する株式会社クロフィーでは、両ユーザーに向けた本連載企画を行っております。編集は小南陽子、サポートは土橋克寿

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