産経新聞社での記者を経て、株式投資型クラウドファンディングを提供するイークラウド社の編集・広報業務へ転身した古川園子さん。今回のインタビューでは古川さんが「働く上で大切にしたいこと」や「人々に伝えたり、役に立つこと」の大切さを伺った。(聞き手:奥村亮佳 編集:小南陽子 連載企画:学生が迫る、広報PRの担い手の素顔)
困っている人の言葉を代弁したい
ーー新卒入社で、記者職を目指されたきっかけを教えて下さい。
もともと人と話すことが好きでした。学生時代は短期アルバイトに登録していて、家電量販店やスーパーなど、様々な場所へ派遣されたのですが、そこで「初対面の人とどこまで仲良くなれるか大会」を自分の中で開催していたくらいです(笑)。人間観察をしながら、いろいろな人と話をして距離を縮めていました。
就職活動では、当初イベント職やディベロッパーを志望していました。ですがある時、近所に高齢者に向けて商品を販売するお店ができました。値段も高額で詐欺まがいの商品のように思いましたが、そのお店には連日たくさんの高齢者の方が並んでいたんです。そこで、一人の女性に「ここの商品は高額なのに、どうして毎日並んでいるんですか?」と聞いてみたんです。するとその女性は「高額だけど、一人暮らしの私にとってここは友達を作れる大切な場所なの」と言いました。その時に、はっとしたんです。「この女性が抱えていた思いは、私が話を聞かなければ知ることができなかった」「何をしてあげたらいいんだろう」と。
そして、「私が代弁者となって困っている人たちの力になりたい」と考え、記者職を視野に入れるようになりました。作文は得意な方ではありませんでしたが、記者になればいろいろな人へ会いに行って直接話を聞くことができるし、人と話すことが好きな私にぴったりだと思いました。
ーー記者時代にやりがいを感じたことや大変だったことはありましたか?
やりがいで言うと3種類に分かれます。まず1つ目は、取材先で色々なお話を聞けた時です。先ほど話したように私は「書く」より「聞く」ほうが好きだったので、取材先で「あ、これは私が書かないと歴史上なかったことになるのではないか」といった話を聞けたり、インタビューでその人の人生哲学まで聞けた時ですね。また、法律や制度では保証されない狭間にある問題の話を聞いて、「この社会問題に私が名前をつけなきゃ」と思えるような興味深い話を聞けた時は「うわーっ、私が伝えるんだー!」と駆け出したい気持ちになります。
2つ目は、私が記事にすることで世の中の役に立てたと実感する時です。例えば私が社会的な問題について書き続けていたら、少しずつ世の中が反応してそれが最終的に立法につながったものが10年間で2件ありました。他にも、台風災害の時に現場で聞いた被災者の話を新聞掲載した翌日、その報道を見た保健師が、その被災者の方に連絡をしてきてくれたり、取材した人から感謝の言葉を頂いた事もあります。
最後は、影響力の大きい領域を取材している時です。例えば、社会部にいた時には最高裁判所の担当をしていました。最高裁の判決は法制度のあり方を決めたり、歴史を作るような意味合いもあります。経済部にいた時は超大手企業の会見を記録することで経済界に影響を与えたり、世の中の世情を反映できます。
反対に大変だったことは、執筆の発注がかさむ時です。ニュースは日によって生まれやすい日も生まれにくい日もあるので、急に紙面が余りそうになる日もあるものです。デスクに「何か書けないか」と言われたら夕方までに必死でネタを捜さなくてはなりません(笑)。人の役に立つことが私の原動力となっていましたから、丁寧に取材をしたうえで心を込めて記事にするのと違って、忙しさに追われながら心を込めきれない仕事をするのはなかなか骨が折れました。
もっと直接、相手の役に立ちたい
ーーなぜ、クラウドファンディングの世界に興味を持ち、転職をしようと思ったのでしょうか?
仕事をしていく中で「もう少し直接的に相手の役に立ちたい」と思ったからです。初めてそう思ったのは、実は記者時代の早い段階でした。限界集落で「移住者を増やす」イベントの主催団体を取材した時、イベントはとても盛り上がって、関係者の方からも感謝のお言葉を頂くことができました。
ですが後日その集落にいったら、結局誰も移住せず、むしろ高齢化が少し進んで例年のお祭りも中止になってしまったというお話を聞いたんです。その時に自分の力不足を感じました。もちろん新聞社の仕事なので第三者的に書くのが大前提ですが、「もう少し編集力を相手のために使いたいな」と感じたんですよね。
さらに産経新聞で副業解禁の検討がされた時に、ある先輩が業務日誌に「これからは副業が当たり前の時代になるから、いかに会社を通さずに社会に影響を与えられるかが大事になるのではないか」と書いているのを読み、目から鱗が落ちました。「報道にこだわる必要はないのかもしれないな」と思うようになりました。
そこで、イークラウドに転職する前にプロボノという専門的なボランティアチームに参加してコピーライターの担当をするようになりました。主にホームページの方向性やキャッチコピー・デザインなどを決める支援をしていました。その時に、やはり直接相手の役に立つことは楽しいなと純粋に思ったんです。「誰かの代弁をしたい」という気持ちも満たせるし、「挑戦者を応援するって気持ちいいな」と思いました。そして、丸10年記者をしたタイミングでイークラウドと出会ったのです。
ーー転職の際に、不安を感じたことはありましたか?
最初は、大手企業からスタートアップに転職することは全くイメージがつきませんでした。正直不安もありましたが、クラウドファンディングという仕事自体が挑戦者を支援するような仕事だと思ったし、それを通じて「スタートアップを活性化させて世の中を元気にするんだ、経済を活発にするんだ」という視座が高い会社だと感じたので、思い切って飛び込みました。
ーー現在のお仕事の具体的な内容について教えてください。
弊社はクラウドファンディングの中でも「株式投資型クラウドファンディング」に分類されていて、資金調達をしたいスタートアップと個人投資家の方を結びつけています。その中で、私は現在広報と編集業務を兼任しています。広報については弊社のコーポレート広報と、支援先企業のPR支援を行っています。
編集業務ではクラウドファンディングの募集ページを制作しています。1つ1つの会社について掲載して、その企業がどういったオリジナルの技術を持っていて、どのような将来を検討しているのかを文章やインフォグラフィックで伝えます。そのほか、メールマガジンの配信、自社イベントの企画なども私のチームの担当です。
ーークラウドファンディングの業務に携わっていくうえで、各分野の知識がついて詳しくなりますか?
その企業の担当の方や代表の方にインタビューする前に、資料などを見て知識を頭の中に入れておきます。中には専門的な知識も求められることもありますが、自分の中で一生懸命翻訳して、自分なりに説明できるようにしていますね。記者時代にもたくさん専門用語は出てきていて、そこで逃げずに一生懸命向き合う力が養われたのか、それは今の仕事でとても活きていると思います。
ーー新聞記者時代の経験が活きているのですね。
難しいことでも絶対あきらめないで伝えるところや、向き合うところは私がこれまでやってきたところです。広報業務でも記者時代に意識していた「虫の目・鳥の目・魚の目」という考え方をとても大事にしています。虫の目はこれはなんなのか、どういうものなのか、という細かい詳細。鳥の目はそれがどれくらいすごいのか。魚の目は、なぜ今それがすごいのか。この3つの視点を念頭に情報収集したり、伝えたりすることを今も意識しています。
ーーイークラウドで広報関連活動を中心に、これから挑戦したいことや力を入れていきたいことなどもお伺いしたいです。
株式投資型クラウドファンディングや、スタートアップを支援するためのプラットフォーム事業については、起業家の方にとっても投資家の方にとっても意義の大きいサービスであると感じています。今は国全体でスタートアップを支援する方向で動いているので、もっと知られていくべき事業だなと感じています。
ただ、やはり弊社自体も1つのスタートアップ企業なので、圧倒的な看板がない中でどれだけ出来るかというのは腕の見せどころですね。先程言った「虫の目・鳥の目・魚の目」の3つの視点で様々な所に注目してもらえるよう、これまで以上に頑張って発信していきたいです。
キャリア・アンカーを見つける
ーー今は20代でも転職や転職活動経験者が6割以上と言われています。転職をご経験された古川さんに、この時代に転職を考える人に向けてメッセージを頂けたらと思います。
「キャリア・アンカー」をご存知でしょうか?キャリアを積むうえで自分が大事にする8種類の価値観や軸のことです。そのキャリア・アンカーが「仕事を始めて10年程度経過したころに明らかになってくる」という記述を、たまたま前職でお世話になった方の本で見つけました。その時はちょうど転職した直後で、それを読んで自分を振り返ってみた時に、新聞社にちょうど10年間勤務したタイミングで「奉仕・社会貢献」というキャリア・アンカーを見つけていたことに気が付いたのです。
もし転職をしようと考えているのであれば、「これだけは譲れない」「こういうことをしている時が楽しいな」などという自分らしさの基準を見つけてほしいと思います。その基準を持っていれば、転職後もきっとうまくいくでしょう。
仕事は大切にしたいことを実現する上での「手段」なので、今の会社で何かにチャレンジしてみてもいいかもしれないし、共感できる会社が見つかるなら転職するのも一つの選択です。今は定年退職する年齢も上がっていて、20代・30代にはたくさんの可能性があります。長く働くうえで、「自分の信念」や「何を大事にしたいか」という軸がはっきりしていると、きっとずっと楽しく働くことができるのではないかなと思います。
自分の中のキャリア・アンカーを理解して転職するのであれば、「ここの会社だったら叶えられそうだな」と思える会社を見つけて、挑戦してみるのも1つの手ではないでしょうか。
ーー大学生の段階で無理してキャリア・アンカーを見つけようとしなくても大丈夫でしょうか?
大学生は無限大の可能性を持ってるので、転職が当たり前の時代の今、働きながらキャリア・アンカーを見つけていけばいいと思います!働いてみて少し違うと思った時は、「もっとこういう風に働きたかった」という気持ちを言語化して、それに沿う会社に行けば問題ないと思います。
古川園子
イークラウド株式会社 CX(カスタマー・エクスペリエンス)部・広報
2011年4月に新卒で産業経済新聞社に入社。大津支局、東京社会部、東京経済部に所属して、ビジネス、IT、法律分野のニュースなどを担当した。2022年10月に株式投資型クラウドファンディングを運営するイークラウドに入社。クラファンの募集ページの企画編集をはじめとする個人投資家向けの発信や広報業務を行う。
聞き手&執筆担当
奥村亮佳
株式会社クロフィー インターン
日本大学法学部2年
インタビューを終えて:私自身初めてのインタビューだったので、とても緊張していました。ですが、古川さんの明るさと前向きな考え方を聞いていてだんだん緊張もほぐれていきました。古川さんが学生時代にアルバイト先で独自に行っていた「初対面の人とどこまで仲良くなれるか大会」のお話は特に印象に残っています。自分で交流の幅を開拓していきながら、より近い距離で誰かの困っていること・挑戦したいことのサポートをする古川さんの人生観を私自身の人生の中でも参考にしていきたいと強く思いました。