フォトグラファーが大切にする価値観とは?ーーロマンチストとリアリスト

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下、秩序ある東京の夜の街を捉えた写真集『Night Order』を刊行し、日頃は広告や雑誌などでポートレイト写真を撮影するフォトグラファーの小田駿一さん。激動の時代にクリエイションが持つ意味、これからのクリエイションを担う若者は何を見て捉え生きていくべきなのかを聞いた。
(聞き手:藤原拓馬 / 連載企画:学生が迫る、メディアの担い手の素顔)

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写真集『Night Order』

学生からフォトグラファーになるまで

――写真に興味を持ったきっかけは何ですか。

大学時代、ファッションやカルチャーを扱うフリーペーパー『ADDmagazine』を、友人と制作するようになりました。当時、『TUNE』『Droptokyo』などのストリートフォト雑誌やWEBが全盛の時代で。私たちのフリーペーパーでもファッションスナップを撮ろうという話になったんです。特に興味があったわけでもなかったのですが、成り行きで一眼レフカメラを買うことに。安価な入門モデルで、ボケ味など一眼レフカメラの魅力を理解できるカメラではありませんが、写真を撮り始めるきっかけになりました。

そうこうしているうちに時が経ち、大学3年に。このまま就職したくないと思い、交換留学生としてロンドン留学しました。ロンドンに到着した時が、ちょうど9月でロンドンファッションウィーク前。たまたま、カメラを少し使ったことがあったので、ご縁で日本のウェブメディアのアルバイトに誘われて。ロンドンファッションウィークの展示や会場の撮影をさせてもらいました。そんな流れの中で、クリエイターと触れ合い、真剣にカメラに興味を持ち始めたんです。知り合いになったフォトグラファーの先輩の現場を頼み込んで手伝わせて頂いたり、フリーランスとしてファッション誌の仕事をさせて頂いたり。若い時の自分には刺激的な時間でした。

その後、帰国し、大学を卒業。一時は企業に勤めるサラリーマンをやったこともありました。けど、その世界には馴染めなかった。本当にやりたいことってなんなのだろうと考える中で、自然に写真を仕事にしようと思いました。ロンドンで写真を勉強した、仕事をしたといっても、当時日本には全然知り合いがいなかった。写真作品をまとめたブック(写真作品を収めているファイル)を片手に色々なところを回って仕事をいただき、何とか今がある感じですね。

若者がクリエイションしていくにあたって

――写真やファッションは凄く自由なものですが、それを仕事にしていく中で思いのままのクリエイションを発揮できない場面もあるかと思います。クリエイティブなことを仕事にしていくために、どのような段階を踏んでいくことが大切ですか。

「クリエイティブな職業はクリエイティブなことだけする」と考えているかもしれませんが、本質は他の職業と変わらないんです。フォトグラファーとして生きていくために、まずは「営業=自分自身と自分の作品を知ってもらう努力」が大切です。泥臭くて、かっこ悪く聞こえるかもしれないけど好きなことだけやって、アルバイトをして生計を立てて〜ではプロフェッショナルとは呼べませんからね。それは単なる飲み会の場合もありますが、営業してお仕事をもらう。その後に現場で編集者やライターの方達とコミュニケーションを取り、商業作品を作り上げていく。その結果、それがただの自己表現ではなくて「プロの仕事」になると思います。

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AMIAYA(Forbes JAPAN) / 編集者・スタイリスト・ヘアメイク、
多様なスタッフの力でビジュアルが作られる。

「才能ある人がたくさん写真を撮ってどんどん仕事が来ていつの間にかお金持ちになってました」みたいなことを想像している人もいると思いますが、実際にはそんなことはなくて、売れているカメラマンでもしっかり営業していますね。とても泥臭い仕事なんです。フリーランスで仕事をしていると、ビジネスマン的な要素の大切さもすごく感じますね。そもそもいい人間であろうとする努力、現状に満足せずより良い写真を撮ろうとする努力、チームプレイヤーとして予定調和の先にあるまだ見ぬ何かを探求しようとする努力。あらゆる能力をフル活用する総合格闘技のような感覚ですね。これって、写真だけではなくて、どの仕事にも共通しますよね。もちろん良い写真を撮るっていうクリエイティブな部分は一番大切にしなければいけませんが、対人関係のコミュニケーションスキルだったり、しっかりと説明するプレゼンテーションスキルも軽視せず、磨いていく必要があります。

クリエイティブなスキルと、ビジネスマンとしてのスキルの双方が高いレベルにあって、初めて本当の一流や超一流になれると思います。私も、まだまだ未熟の極みですが、そのことを日々意識して仕事しています。別の言葉でいうと、ロマンチストとリアリストのバランスを上手に取ることが必要なのかもしれませんね。

ロマンチストとリアリスト

――今楽しい部分にしか目が向けられていない学生(ロマンチスト)が、少しずつビジネスマン(リアリスト)に近づくには、どのようにしていったらいいですか。私はファッションデザイナーになりたいと思っているのですが。

もしファッションデザイナーになりたいのだったら、実際に洋服を作ってお金稼いでみたらいいんじゃないでしょうか。一つの例ですが、10~15型のサンプルを作るのに200万円、その後に展示会をする会場費や施工費で50万円くらいかかるとします。つまり、まずは250万投資しなければいけない。その250万円を稼ぐために、上代を原価の3倍に設定したとして、売上として750万円分でとんとん、自分が生きて行くことも考えると1000~1500万円を売らないといけません。どれくらいの人が自分の服を毎シーズン買ってくれるか、考える必要がありますよね。そういった、250万円の初期資金があって、1シーズンで売上1000〜1500万円が立てられる人が初めてファッションデザイナーになれる。実際に手を動かして、頭を使って思考実験すると、随分リアリティーが見えてくる。これはあくまで例なので、現実を相当シンプルにしていますが。

「じゃあどうすればできるんだろう」って考えた時に、自分に足りないものが見えてくると思います。「量産するための工場知らないぞ」とか、「展示会ってどうやったらいいんだろう」とか、まずはお金や生活面をリアリティー持って考えることです。本当にそれを仕事として生きていくのだとしたら。

一方で、ロマンチストである学生が羨ましい。今振り返ると、学生時代って時間やお金に余裕がある無敵なスターな状態です。なんでもできる。もう一度やり直したい。

――実際にお金や時間をかけてみると。

そう。学生時代は、社会人みたいにお金を稼がなくていいから逆に創作に集中できますよね。だから、まずは創作へ集中して、自分が創り得る最高傑作を作ってみるのもありだと思うんです。その時に学生だからって言い訳するんじゃなく。同じ人間で同じ地平に立ってるわけで、同じように手と足を使えるわけだから。年齢もプロフェッショナルとして活動してる人たちと数年しか変わらないですし。

だから、学生っていうのをひとまず度外視して、一人のクリエイターとして「これ否定されたら自分が心から落ち込むくらい根詰めて作ったもの」をやってみるべきじゃないかな。言い訳の余地がないように。そのように、ロマンチストとリアリストの両面を意識して実践したらいいと思います。


Night Order_新宿思いで横丁_8089

写真集『Night Order』より /
『悪魔には悪魔を』(直木賞作家大沢在昌著)表紙に使用された写真。
商業写真だけではなく、写真作品を作り続けることも重要。

違和感に向き合う

――昨今、SNSの普及で、国民1億総クリエイター化と言われています。どう考えていますか?

程々に使って楽しめばいいんじゃないかと。個人的には、それによって「カメラマンの仕事が減るんじゃないか問題」に関してはすごい懐疑的です。例えば、絵を描ける人が増えたところで、画家やイラストレーターの人の仕事はなくならないでしょう。ある一定の技術レベル以上の人が初めてなれるわけなので。

対して、写真って機械を介して創るものだから、ある一定のレベルまではいけてしまうんです。だからわかりにくくなっているんだけど、作品撮りとかは別として携帯でパシャパシャ撮っているものは『画像』です。プロのフォトグラファーとして撮っている『写真』は、ある一定の技術レベルを超えたものです。それは見たらわかってもらえるんじゃないかと。

――小田さんは、慌ただしく情報が流れていく今の世の中をどのように捉えていますか。

自分らしくいることが一番の差別化戦略だと考えているので、人間として正直に自分らしくいることが一番大切だと思っています。世界がこう動いているとか、友達がこういっているとか、深い所ではクリエイションを行うためには結構どうでもいい事かもしれません。何を見て何を感じるべきかってところでいうと、「自分は何を感じているのか」や「自分が本当はどう思っているのか」という基本的なことを忘れがちなので、きちんと内省するべきです。特にアーティストやクリエイターは。

誰かが言ったことや本で読んだことを、また他の誰かが言ってメディアに載ることが結構ありますよね。色んなメディアに目を通すと、載ってる情報が二番煎じ、三番煎じなことが多いです。知っておくのはいいですが、そういう情報はそんなに重要ではありません。自分が実社会に生きている中で自分が何を感じ、どこに違和感を持って生きているのか、ということの方が重要です。

フォトグラファー / 小田駿一
1990 年生まれ。2012 年に渡英し独学で写真を学ぶ。 2017 年独立。2019 年に symphonic 所属。人物を中心に、雑誌・広告と幅広く撮影。
​アートワークとしては、2020年に緊急事態宣言下、東京の夜の街を撮影した「Night Order」シリーズを発表。2021年には、「Gallery of Taboo」を主催し、新作の「OTONA性 – 百面相化する自己意識の果てに」を発表した。社会との繋がりの中から着想を得て、人の心と行動を動かす「Socio-Photography」を志向する。
WEB : https://www.shunichi-oda.com/

聞き手&執筆担当:藤原拓馬
株式会社クロフィー インターン
日本大学経済学部産業経営学科3年

インタビューを終えて:フォトグラファーという一見クリエイティブな仕事をされているにも関わらず、根本の考え方としてリアリストな部分を感じ、これからの自分に活かしたいと思える部分がたくさんありました。いつか何らかの形で写真やクリエイションを通してご一緒できることを目標に精進していこうと思いました。

本連載企画について:記者ら、メディア関係者のための業務効率化クラウドサービス『Chrophy』を開発する株式会社クロフィーでは『学生が迫る、メディアの担い手の素顔』と題した本連載企画を行っております。編集は庄司裕見子、サポートは土橋克寿
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