大手出版社からケータイジャーナリストへ転身ーー携帯電話の今と昔

今や日常生活に欠かせないものとなったスマホ。その普及以前から執筆活動を続けてきたケータイジャーナリストの石野純也さんは、慶応義塾大学卒業後、出版大手宝島社に入社したのち独立、現在はフリーで活動している。利用してきた通信キャリアも多く、家中がガジェットで溢れる石野さんから、携帯電話の今と昔を聞いた。(聞き手:林田桃佳  連載企画:学生が迫る、メディアの担い手の素顔)

石野さん

社長のアサインで通信機器の道へ

ーー現在の石野さんのお仕事について教えてください。

いくつか連載を持っているので、1日最低1本くらい記事を書いています。取材相手は携帯電話会社、通信キャリア、端末メーカー、コンテンツサービス・アプリ開発会社の方たちが中心です。その他、一般ユーザーや、販売店、総務省の有識者会議の参加者らから話を聞く機会もあります。

ーー取材準備より、執筆に時間を掛けられていますか。

時間を測ったことがないので分かりませんが、作業時間という意味では、記事を書いている時間の方が長いと思います。ただ、書いている内容に関して調べながら書いている向きがあるので、きれいに分かれてはいませんね。

ーー長く執筆業をされていますが、新卒で出版業界、その中でも宝島社へ入社された決め手をお聞かせください。

何かかっこいいことを言えればいいのですが、特に理由はなく(笑)、就職採用試験で受かったというのが一番大きな理由です。ただ、元々出版業界へ入りたいなと思ってはいました。当時から出版は斜陽産業と言われていましたし、しかも就職氷河期真っ只中、大学卒業生の中で就職の為にわざわざ留年する人がいる状況でした。採用人数が少なく、求人倍率も非常に低い中、とりあえず手当たり次第に受けて採用されたのがそこだったというのが率直な理由です。とはいえ、そもそも志望順位が低い会社だった訳ではなく、カルチャー系、ファッション系、文芸系など幅広く手掛け、少し尖った会社という印象を抱いていた為に面白そうだなと思い、入社しました。

ーー携帯電話などのガジェット類は、学生時代から興味があったのですか。

全くなかったわけじゃないですが、専門的に興味があったかというと、そうでもありません。ただ、僕が学生の時にiモードやガラケーが出てきたことで、初めて携帯電話がネットに繋がり、メールも送れるようになったのですが、割といち早く使っていました。そういう意味でいうと、人よりは興味があったと思います。仕事にできるレベルかというとそうでもないのですが、宝島社へ入社し、何となく機械に強そうだということで、コンピューター関連の書籍や雑誌を作っている部署へ配属になりました。最先端で先進的なものなので動きも激しく、面白いなと思い、そこからはまっていった感じです。

ーー大手に就職された上で、石野さんが独立しようと思われたきっかけについて教えてください。

編集者という立場だと書ける範囲が限られ、基本的に編集作業が仕事になってしまうのですが、私自身は元々、執筆そのものがしたいと思っていました。また、出版業界は途中でフリーになったり編集プロダクションを立ち上げたりする人もいて、転職も多く、定年まで残るというカルチャーは強くありません。辞めることに関して「挑戦するぞ」みたいな強い気持ちはなく、ごくごく自然にという感じでした。

ーーフリーランスへ転向するにあたって、キャリアビジョンはあったのですか。

ぼんやりとはありましたが、特にはありませんでした。元々宝島社がPC・携帯電話関連の書籍やムックを扱っていたのですが、他ジャンルへの異動の話が出ました。ただ、もう少し同じ分野を追い続けたいと思っていたので、フリーランスに転向した形です。そこまで深く考えていたかというと、とりあえず何とかなるだろうくらいしか考えてなかったです。

端末の処理能力向上によるトレンド変化

ーー携帯電話の普及転換期は、いつ頃のどのような出来事だったとお考えですか。

大きな転換期として、iモードの登場があります。僕が大学に入学した当時は、少し長めのメールを打ったり、ネットのサイトを見るには、パソコンへ繋いで通信しないとできないことでしたが、iモードの登場で、携帯電話だけでメールを見れたり、乗り換え案内や天気予報などの情報を外出中でも簡単にサイトアクセスできるようになりました。その後、スマートフォンやiPhone、そして対抗するようにAndroidが出てきたところで、使えるサービスやアプリケーションが今のコンピューターに近づいていきました。

ーーカメラの撮影技術に特化したスマートフォンなどが出てきていますが、石野さんが感じているトレンドの変化についてお聞かせください。

スマートフォンになって処理能力が高まったことで、撮った写真をAIで処理してセンサーやレンズで撮れる以上のものを仕上げる「コンピューテーショナルフォトグラフィー」という技術がトレンドになっています。

iモードが登場した当時、最初にJ-PHONEの写メールというものがカメラを搭載しました。クオリティは約30万画素とすごく低かったのですが、スマートフォンになる前にある程度の画質を撮れるようになっていきました。携帯電話で写真を撮ることはその頃から脈々と続いていて、「人に送りたい、撮りたい」というニーズによって、より便利に、きれいに写真を撮れるようにしていこうという流れで本格化してきていると感じます。モバイルと相性が良かったカメラという点で、はまったのだと思います。

ーーカメラ以外に感じられたトレンドはありますか。

最近では、AIやコンピューターの処理能力を活かしたものがあります。例えばGoogleの文字起こし機能や翻訳機能など。また、インターネットに繋がることによりコンテンツに変化が起きます。その中でディスプレイのサイズがトレンドとしてあり、画面自体を折りたためる「フォルダブルスマートフォン」も出てきました。

昔は携帯電話は持ち運びやすい方が良いと言われていましたが、スマートフォンの登場で常識が変わり、より大型化していくと考えています。iモードの時には、端末の処理能力の低さ、ディスプレイの小ささ、あとは通信が2G・3Gだったという点で、そこまで流行らなかったという背景があります。スマートフォンになってPCに近づいてきたのですが、画面の拡大化と、通信速度が4G、5Gと速くなり、固定回線と比べ何ら遜色のないスピードになってきた事はトレンドに大きな影響を与えています。

ーー国内でのiPhoneシェア率が海外よりも高い点はどこにあるとお考えですか。

諸説ありますが実際に見てきた立場から言うと、イギリスやアメリカ、日本など所得の高い国ほどiPhoneの比率が高い傾向にあります。中でも日本は突出して高く、約半数の人がiPhoneを使っています。要因として、iPodやMacなどで元々Appleの人気が高かったことや、キャリアが積極的に販売したこと、日本での販売戦略の上手さが挙げられます。

まずソフトバンクが独占で販売し、最初のiPhoneはそこまで売れなかったのですが、目新しさや利便性が評価されていき、次の世代から徐々に伸び始めていきました。その中で新たにau、ドコモが参加し、熾烈な顧客獲得競争が繰り広げられた結果、市場が盛り上がりました。

また、iPhoneからAndroidに変えることは使い込むほど大変で、データを移すこと、同じアプリが無いこと、使い勝手が違うということなど全て含めて、心理的ハードルも高いです。こうしてシェアを高めていくと次もiPhoneにしようかなという気になります。それらが、今も高いシェアを継続している一因だと思います。

大前提として、以前はスマートフォンと言われているものでも画面が指に追従しないという欠点がありました。その中で、タッチパネルで滑らかに操作でき、画面の中のものを実際に触っているかのような、非常に完成度の高いものを出せたというのも大きな理由です。

販売戦略でいうと、日本でファンが多いというのも1つあります。MacやiPodの販売で、着実に海外メーカーの中でもブランド力が高く評価されていき、そのAppleが携帯電話を作るという期待感は影響しています。

ーーこれまでのキャリアから、iPhoneを凌ぐ製品構想などあれば差支えのない範囲でお聞かせいただけますか。

カメラ機能や通信性能などの面で、iPhoneを凌ぐものは実はもうあります。ただ、一貫したユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスのものは中々ありません。

携帯電話は大体10年くらい経つと定着して、急にポンと次のものが出てくるということがあります。こういうことは、通信規格がガラッと変わった時に起こりがちです。まさにiPhoneがそうで、最初3Gで普及しましたが、フルで使うには通信が遅くて完全に活かしきれていませんでした。そこで4GやLTEが出てきて一気に真価を発揮していった形です。5Gに合わせた何かが出てくる可能性はあると思っているのですが、中々出てこずスマートフォンが主役のままになっているので、もう少し面白いことが起こらないかなと(笑)。

コンシューマーデバイスで見ると、今はスマートフォンと連携することは当たり前になっていますが、スマートウォッチやスマートグラスのようなものがスマートフォン的な進化をしていくこともあり得ます。今の板状のスマートフォン、iPhoneが、途中で形を変える可能性はあると思っています。

ただ、フォルダブルスマートフォンを次のトレンドにしたいと考えている人たちはいて、どこまで定着するかですね。折り曲げるだけという見方もできますが、画面の大きさと使い方は密接に関わりを持つので、僕自身はフォルダブルのようなものには可能性を感じています。

スマートフォンの次にドライブするものは…

ーー今後執筆活動をする上で、石野さんが新たに挑戦してみたい分野はありますか。

通信やスマートフォンなどを追いかけていると、自分で何か挑戦しようと思わなくても、勝手にどんどん新しいものがスマートフォンや通信の中に入ってきます。僕がフリーランスで記者になった時には、金融サービスを取材するとは全く思っていなかったのですが、いつの間にかKDDIが銀行を作り、ソフトバンクがPayPayを始め、今ではお金の話もするようになりました。あまり「これだ」と考えすぎずに、皆さんが始めた新たな面白い事を追っていきたいです。

ーー最後に、執筆業を目指している学生にアドバイスをお願いします。

僕らみたいなフリーランスは発信しやすく、個人の名前で活動しているので注目を集めることも多いのですが、メディア業界の流れを見たり、取材方法や文の書き方を学ぶことはやはり大切です。フリーランスはダイレクトに目指さず、メディアに入り修業を積むのが、フリーランスになりたい人の一番の近道だったりします。幅広く新聞や出版も含めて、一旦就職なりバイトなりで、中で働いてみることをおすすめします。

個人的な経験から、そして周りを見ても長く生き残っている人は割と正社員か否かに関わらず、出版社や新聞社の中で働いていた経験のある人が多いです。正攻法であると思いますので、就職活動頑張ってください。 石野 純也のポートフォリオ メディアの担い手のための審査制プラットフォームChrophy(クロフィー):ポートフォリオ作成からAI文字起こしまで chrophy.com

石野純也

慶応義塾大学卒業後、新卒で出版社の宝島社に入社。その後の独立でフリーランスとなり通信事業者、携帯電話メーカー、コンテンツプロバイダーなどを取材し、ケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体を対象に活動している。

※過去記事の一部は、こちらからご確認いただけます。

聞き手&執筆担当

林田桃佳

株式会社クロフィー インターン
国士舘大学政経学部

編集後記インタビューを終えて:人間が今後共存していくであろう通信機器のこれまでと今後について、専門分野として活動されてきた方から直接お話を聞けた事は、ネット上で誰でも書き込める時代だからこそ更に意義深いと実感しました。今後も少しずつ形を変えて生活の一部となる携帯電話について、目が離せなくなりました。このような機会を設けていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

本連載企画について:メディア関係者と広報PR関係者のための業務効率化クラウドサービスを開発する株式会社クロフィーでは、両ユーザーに向けた本連載企画を行っております。編集は庄司裕見子、サポートは土橋克寿

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