「NECの企業名は知っているけれど、NECが何をしている会社かと問われると、即答できない」。そんな人もいるのではないのだろうか。創業123年、NECは国内外で電機産業の技術を磨いてきた。デジタル化に伴い、その商材は、機器から社会を支えるシステムへと重点を移してきている。社会に溶け込んで日常生活を支える「社会価値創造型企業」として、社会に如何にインパクトを残すか。そのコミュニケーションを司るのが「広報」だ。
情報網の多様化を受け、2022年4月、社内外のコミュニケーション活動を行うコーポレートコミュニケーション部が再編成。今回は、さまざまなコミュニケーション手段を統合して行うインテグレーテッドコミュニケーショングループのリーダーである、高木綾子さんに話を伺った。(聞き手:栗山真瑠 編集:庄司裕見子 連載企画:学生が迫る、広報PRの担い手の素顔)
改新されたコミュニケーションを行うリーダーとして
ーー高木様の現在の業務内容を具体的に教えてください。
現在、私はコーポレートコミュニケーション部のインテグレーテッドコミュニケーショングループのリーダーを務めております。それまでは、6年間ほどPR・広報専門、さらにその前はブランド戦略などマーケティング系の仕事をしていました。
今のグループは2022年4月に新設されました。ひとことに広報と言っても、最近は情報の流通が多岐に渡ってきています。若い人が新聞を読まなくなったり、テレビを見なくなったり、情報収集をSNSでしたり、ニュースはスマホで読んだりという変化にともなってメディアの動向も変わりました。「企業の広報もそれを吸収していく必要がある」と、現在のコーポレートコミュニケーション部の責任者である岡部が中心となって、2021年4月にコミュニケーションのあり方を変革するため組織変更を行いました。
広報としての機能はもちろん、今まで通りメディアリレーションも必要です。それに加えて、SNS・Web、コーポレートブログを含むオウンドメディア、産業アナリスト対応、社内コミュニケーション、CEOコミュニケーションなど様々なコミュニケーションチャネルを組み合わせた総合コミュニケーションとして、情報発信やストーリーテリングをしていく必要があると考えています。そうは言っても、いきなりマインドチェンジができません。なので、新たなプロジェクトを引っ張っていくグループとして設けられたのが、インテグレーテッドコミュニケーショングループです。
私はプレスリリースの執筆、取材対応、SNS発信、メディアやSNS、社内向けの動画撮影、ビジネスサイドとの記者会見など、業務内容は多岐にわたります。社内のグループメンバーとのコミュニケーションにおいては、対面でのディスカッションも必要なので、週3くらいで出社しています。
ーーSNSとは、具体的にどのようなメディアを運営されていますか。
Twitter、Facebook、Instagram、LinkedInです。FacebookとInstagramは日英、Twitterは国内向け、LinkedInは海外向けと使い分けています。
2022年4月から私も所属する横断チームで各SNSを運営しています。実は私、企業SNSを運営するのが初めてで。だいたい1、2か月でそれぞれのSNSの特性が分かってきたので、各オーナーとプラットフォームの特性に合わせた発信を心掛けています。拡散力が強いTwitterでは動画を中心に発信したり、海外ではビジネス系で最も使われているLinkedInでは、NECの公式アカウントに加えて、CEOの森田の個人アカウントを開設して積極的に発信するようにしたり、といった感じです。
ーー2022年4月に組織が大幅に変わったとのことですが、お仕事の内容は変わりましたか。
複数のツールを管理することになったので、業務内容自体は変わりました。そういう意味では、視野が広がって、メディアにインプットさせる情報に深みや広がりが出たのはすごく良い変化です。
情報が溢れる社会のなかで如何にしてインパクトを残すか
ーーNECのコーポレートコミュニケーション部として、社内外にどのような働きかけをすることを目標としていますか。
責任者の岡部が一番口にしているのは、「社内・お客様・社会にインパクトを残す」ということです。なので、私たちもインパクトをどう出していくかを考えながら日々の業務をしています。
そういう意味では、プレスリリース1枚では目的は達せません。日経の一面に記事が出ても、新聞を読んでいるビジネスパーソンにインパクトを与えられても、テックメディアやSNSから情報を集める技術者、若年層や海外の方にはインパクトが及ばない。もちろんニュースの記事になることも手段のひとつですが、SNSの方が多くの人の目に触れる場合もあります。例えば、去年のマイクロソフトさんとの共同プロジェクトでは、ターゲット層を見極めて、双方のCEOの対談をオンライン上で企画し、ビデオ化し、SNSで拡散をはかりました。
ーーベンチャー企業の広報は、経営層と密な繋がりをもっている印象が強いですが、NECのような大企業でも広報は経営陣に近い立ち位置なのでしょうか。
社長や役員と近くなければ、広報として幹部の思いを深く理解できません。なので、密なコミュニケーションが必要になり、必然的に経営層との距離は近くなります。最近はさらに踏み込んで、当部がCEOコミュニケーションの責任を持ち、様々な企画をしています。例えば、社内のコミュニケーション強化として毎月CEOによるタウンホールミーティングを開いて、CEOと社員の距離を近づけ、経営のメッセージを直接届け、社員のエンゲージメントを高める取り組みもしています。
ーーNECは国内の子会社や海外の拠点も多数ありますが、それらの広報も本社で一括しているのですか。
グループ会社との連携に関しては、各社に広報部が設けられていますが、一部の主要なグループ会社に関しては、ここ数年は本社広報でメディアリレーションをしています。各社それぞれで広報をしていると、メディアへのパイプが分散してしまい、なかなか記事が出ないのが課題でした。海外のグループ会社に関しては、現段階では各会社の広報に任せていて、定例ミーティングなどを行い、情報共有を行っています。
ーー細分化したグループの指揮をとる機能を持つのが、インテグレーテッドコミュニケーション部というイメージでしょうか。
全体の主要な施策のコミュニケーション活動をリードする位置づけなので、チームメンバーや部内の他グループ、部署を超えた社内の様々な組織と多様なアイデアを出し合い、ディスカッションを通してまとめていきます。施策のインパクトをどのように創っていくかを考えるプランナーのようなイメージです。やはり成功例がないとグループのメンバーも業務の意義を理解できないので、まずは成功例をつくることが目標です。
アイデアで生まれる、コンテンツ間での相乗効果
ーー多岐にわたる業務に携わる広報ならではの難しさがあると思います。それをこなすなかで、意識していることを教えてください。
ARからSNS、プロモーションまで手がけるので、広報の仕事はひとりでは出来ません。なので、プロジェクトを進めるチームを如何に巻き込むか、というチーム組成がキーになります。施策を一回で終わる点ではなく、線になるように繋げていきたいと考えています。
ーー逆に、高木様から見た広報の仕事の面白さや魅力は何ですか。
広報の仕事は、アイデアで社会に与えるインパクトを変えられます。今までの経験を活かせるのも有難いことです。それに加え、メディアの方やアナリスト、SNSなど、ターゲットごとに「何が刺さるか」「どうすれば盛り上がるか」を考えていく過程で、チームのメンバーのアイデアを引き出していくのが今の仕事の面白さです。
ーーアイデアを出すにあたって、個人向け、法人向けの施策ごとでの相違点・共通点を教えてください。
一般の方と企業の方では、そもそも理解の仕方や、刺さるポイントが違います。特に、SNSなど一般の方に対しては、プレスリリースの言葉を更に砕いて、理解しやすいように工夫していますね。発信できるセンテンスも短いので、インパクトのある言葉選びを意識したり、動画を活用したりもしています。
広報の業務でもテレビ向けの動画撮影をするなど、同じような仕事をしていましたが、なかなか社会に広く露出しないものが多かったんです。今はテレビ向けのものにSNSでつくったものをフィードバックしたり、広報観点でつくったものをSNSや社内向けのものにフィードバックしたりしています。異なるコンテンツ間での相乗効果が生まれるんだなと実感しています。
長い歴史があるからこそ追求する柔軟性
ーーNECと言えば堅い社風のイメージがあったのですが、最近の記事やサイトを読ませていただくと、実際はオフィスや社員の方が開放的な雰囲気で驚きました。働き方や社内のカルチャーが変わる機転があったのはいつ頃ですか。
NECは今年で創業123年になりますが、長い歴史があることから、社会からのイメージが堅いのかな、と思います。だからこそ、動きが遅くなって社会の変化に遅れをとることに、経営陣も危機感を持っています。事業部門でも、社会の変化に対して切り替えが出来ていないことが課題になっていました。
それで2018年頃に、カルチャー変革をすべくプロジェクトが立ち上がりました。前社長の新野がスタートを切って、社内にチェンジエージェントという変革をリードするメンバーを就け、社内全体で変えていこうと。もちろん採用などのあり方も変わり、中途採用枠が増えて、2022年からは新卒と中途が半々くらいになりました。あとは社員の評価の仕方も変わりましたね。服装も、今はお客様もビジネスカジュアルに切り替わってきているので、NECでもビジネスカジュアルが定着してきました。
働く場という面でも、社員が接する場として、本社をはじめとしてフロア改革がはじまりました。コロナ禍で出社の機会自体が減ったので、withコロナに合わせて、オフィスの席数を社員全体の3~6割を前提に刷新しています。100%在宅、100%出社という企業もあるなかで、NECはハイブリッドを目指しています。自宅で集中したいときは在宅、対面でコミュニケーションを取りたいときは出社と社員が選べる体系です。チームで働くにはどのような環境が良いのかを考えながら取り組んでいます。
直近だと、社員食堂もカフェテリアのような空間にリニューアルし、食事をしながら商談やチームワークができる空間をつくりました。
ーー変革のプロジェクトは、終わりが決まっているわけではなく、社会の変化に合わせて継続していくのですか。
そうですね。ここ2、3年でコロナウイルスの流行で社会全体に大きな変化がありましたが、今後も時代に合わせてトレンドは変化していきます。私は、若い世代の考え方を積極的に取り入れて、働き方やカルチャーもどんどん変化していかなければならないと思っています。
ーー新卒の方と中途の方が同じくらいの割合になるとのことですが、人材育成にはどのような変化があると予想しますか。
キャリア採用の方は、会社で働くに際しての基本的なスキルセットは持っているので、仕事に入るのはスムーズです。それに比べると、会社のカルチャーに馴染むのには壁があるかもしれません。その点、新卒の方は「会社ってこういうものなんだ」とカルチャーを受け入れやすいという違いはあります。
新卒でも中途でも、仕事を教えてくれる先輩は周りにいくらでもいるので、前のめりの姿勢で臨んでくれたらなと。中途採用の方はもちろん、新卒の方も遠慮しないで積極的に自分のスキルを磨いてほしいです。NECの人事で重視しているのは、
自律型のキャリア形成。自分でキャリアを描いて、「これがやりたい!」「こういう働き方をしたい」と、どんどん意思表示をしてほしいと思っています。
ーー現在、高木様はグループのリーダーをされていますが、メンバーを率いる立場として、若手の社員に伝えたいことは何ですか。
世代や個人の性格によって違いはありますが、まずは思ったことを口に出して欲しい、ということです。私たちは、社会の変化についていくためには、若い世代の考えや思いをどんどん取り入れる必要があります。なので、私たちも遠慮して言いたいことが言えない環境も変えていかなければならないなと。
ーー高木さんから見て、NECは子育てしている女性が働きやすい職場だと思いますか。
働きやすいですね。実は、私は10年間シングルマザーとして子育てをしていたんです。それでも、子育てをしながら広報やプロモーションの仕事と両立できていました。ただ、働きたいという意思がある女性にとっては、働きやすいという意味です。意思の部分は人それぞれなので、個人のライフサイクルに合わせた働き方で良いと思います。とにかく、働くための制度はすごく整っているので、当初はフル活用していました。
「自律型のキャリア形成」で見出した将来像
ーー高木様ご自身は、新社会人になる時点ではどんな業界・業種を志望されていましたか。
新卒の頃は、マスコミ業界を志望していました。当初は氷河期時代の入社だったので、マスコミ系を100社くらい受けましたが、それ以外の業界の会社も受けました。それで受かったのがNECだったんです。人と会ったり話したりすることが好きなので、業種としては営業を希望しました。ですが、最初に配属されたのはネットワーク製品の販促をするプロダクトセールスでした。ネットワーク自体に疎かったので、右も左も分からない状態でもがいた2年間でした。
ーーその後、今のグループに配属されるまでの経緯を教えてください。
2005年から2007年までは育休をとって、復職後は事業戦略系のプロモーションを担当することになりました。その中で、自分がどういう分野で視野を広げていきたいかと考えた結果、ブランド戦略をしたいと。それで、社内転職の制度を使って、コーポレートブランディングや事業ブランディングのスタッフ系の仕事に就きました。ここで社内外のネットワークや自分自身の視野をかなり広げられたと思います。同時に、新規事業の立ち上げも兼務して、事業戦略も経験しました。その後、社内外の人的ネットワークを買われて、2016年に広報に配属され、今に至ります。
ーー広報に配属される前のイメージと、実際の広報の仕事にギャップはありましたか。
広報の仕事って、意外と地道で泥臭いんです。NECの広報は、メディアリレーション専門だったので、メディアとしっかりと連携する必要があります。広報は花形のイメージがありますが、記者さんから電話があれば週末も対応するし、記者会見があれば走りまわるし…結構見えない努力が多い仕事なんです。また、私たちはリスクヘッジもしないといけません。ネガティブな露出が出ることもあるので正しくメディアを通じて企業姿勢が伝わるのか、メディアへ丁寧にインプットしていきます。社内の方にも「メディアと接点持てて良いね」と言われたりするのですが、広報の仕事がもう少し伝わったら良いのにな、と思ったりもします。(笑)
ただやっぱり、自分の仕事が記事になるとめちゃくちゃ嬉しいです。息子にも「これママが出したニュースだよ!」って言います。広報の仕事は、人のつながりの上に成り立っています。取材でテレワークの様子を旦那と息子に出演してもらったり、仲の良い記者さんに「帰省での様子を取って良いですか」と頼まれたり。そうした個人的なネットワークから会社のアピールへとリンクすることも、広報の仕事の醍醐味です。
「社会価値創造型企業」の広報としての使命とは
ーー今後、広報としてNECをどのような存在にしていきたいですか。
NECは、もともとスマホやパソコンなどの形のあるプロダクトを提供していたので、一般の方にもNECがどういう会社かを知ってもらう機会がありました。最近は、物というより社会の仕組みやシステムの構築にシフトしてきています。よく見るとATMやレジの機械にロゴが入っているくらいの露出はあっても、プロダクトの多くが社会に溶け込んでいるんです
そこで、私たちが今力を入れているのは、「実はこれNECがつくっているんだよ」と伝えることです。「社会価値創造型企業」と呼んでいますが、仕組みを支えているのがNECであることを伝え、「NECが支えてくれているなら安心」という信頼される企業になるために、まずは認知されることが必要です。
ーー高木様ご自身が今後実現したいことを教えてください。
「NECってこんなことしてるんだ!」と一般の方が驚くようなコミュニケーションをしていきたいです。一番身近な消費者が家族であるように、身近な人に「この会社良いな」と思ってもらえることが何より嬉しいんです。対企業の仕事ではありますが、会社としても人の生活に密着したソリューションを提供したいと考えています。なので、最終的な目標地点は消費者に届けることです。
高木綾子
日本電気株式会社 コーポレートコミュニケーション部 インテグレーテッドコミュニケーショングループ ディレクター
2003年NEC入社。ネットワークSE、プロダクトマーケティング、ブランド戦略等を経て、2016年から現職に従事。有志で取り組む女性活躍推進のプロジェクト「なでしこプロジェクト」の幹事を担うなど、社外活動も精力的に行う。
聞き手&執筆担当
栗山真瑠
株式会社クロフィー インターン
北海道大学獣医学部
編集後記:取材の機会を与えていただいた時点で、私にとってNECは「堅い」イメージでした。ですが、下調べで知った直近のプロジェクトや取材記事から見るNECは、予想と違って、オープンな雰囲気で斬新さに富んでいました。さらに、実際の取材を通して、高木さんご自身やNECの社風についてのお話からも、歴史ある会社だからこそ時代の変化に対する敏感さを感じました。また、「社会価値創造型企業」の広報としての、企業価値の構築の難しさと遣り甲斐を、当事者である高木さんからお聞きできたのは、いち消費者として貴重な機会でした。