誠実で伝わるIRを目指して――愛知の自動車関連企業や上場企業2社を経てセレスへ

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地元愛知の自動車関連企業から上場企業2社を経て、現在はインターネットマーケティングを手掛けるセレスでIR業務を担う川上真帆さん。そのキャリアの原動力や、IR業務の醍醐味に迫った。(聞き手:佐藤愛奈 制作・編集:インタビューAI 連載企画:学生が迫る、IRの担い手の素顔)

「やりたい」を叶えるための編入試験

ーー学生時代はどのようなことに注力されていましたか。

愛知県で生まれ育ち、大学も県内でした。様々なことに挑戦しましたが、中でも大きな出来事は、編入制度を利用して最終学歴の大学へ3年次から編入したことです。編入試験の勉強には、かなり時間を費やした記憶があります。

ーー編入を決意されたきっかけは何だったのでしょうか。

最初は地元の短大へ入学しました。母子家庭で経済的な余裕がなかったため、4年制大学への進学は難しかったのですが、幸い地元の短大に特待制度があったので進学できたのです。しかし、グローバルな視点を深く学びたいという気持ちが次第に強くなり、編入試験を経て南山大学へ。そこはグローバルな視点を重視し、問題解決能力を養う学びの場であり、そういった環境に身を置けることに大きな魅力を感じました。

社長秘書から始まったキャリア

ーー大学卒業後、愛知の自動車関連企業に入社された経緯を教えてください。

特に職種へのこだわりはなく、挑戦できることなら何でもやってみたい、という気持ちでしたね。地元愛知の基幹産業であるものづくり、とりわけ強い産業に身を置きたいという思いもありました。

ーー最初は社長秘書としてキャリアをスタートされたのですよね。

はい。自ら希望したわけではなく、役員の方との面談で「君は秘書がいいんじゃないか」と提案していただき、「ぜひやらせてください」とお願いした形です。経営層の仕事を間近で見られたことは、非常に大きな刺激になりました。

ーー秘書業務で心がけていたことは何ですか。

今も大切にしている「誠実であること」、そして「この仕事の目的は何か」「社長が最も求めていることは何か」を常に意識していました。指示されたことをただこなすのではなく、その指示の本質を常に考えるように努めていましたね。

ーーお仕事で得た経験や、そこから見えてきたものはありましたか。

インプットを大事にする中で、人事へのキャリアチェンジを考えるようになったんです。具体的には、社長や役員の方々との会話の中で、「会社の組織をどう変えるか」「この人をどのポジションに配置すべきか」といったプランニングの話を聞く機会がありました。そのような話を聞くうちに、「会社の成長はこうあるべきだと思う」といった意見交換をさせていただくようになり、私も会社の成長をプランニングし、実務に落とし込む仕事がしたいと思うようになりました。

ーーその後、人事へキャリアチェンジされたきっかけは何だったのでしょうか。

ちょうど人事採用の方が産休に入られるタイミングだったので、「私にぜひやらせてください」と手を挙げたところ、同僚や上司も後押ししてくれて。それでキャリアチェンジすることができました。

ーー未経験の職種への挑戦に不安はありませんでしたか。

新しいことへの挑戦にはワクワク感や楽しさを大事にしているので、不安はなかったですね。また、役員の方々も現場の方々も、私の挑戦を応援し、協力してくれました。本当に人に恵まれた、ありがたい環境だったと感じています。

M&A業界への挑戦とIRとの出会い

ーーその後、企業の経営支援を行うセレンディップ・ホールディングス(以下セレンディップ社)に転職されていますが、理由をお聞かせください。

一番は、興味を持っていた業界だったからです。最初の会社で社長がM&Aに注目しているのを見て、私自身も学ぶ中で、M&Aが企業の成長戦略として非常に有効だと知ったんです。

また、私自身、最初の会社で長く勤めるというよりは、もっと成長している環境に身を置き、新しい挑戦がしたいという気持ちが芽生えていました。そこで、どこがいいかと考えたときに、以前から興味を持っていたM&A業界で働けたらいいなと思うようになりました。製造業では後継者不足で事業承継がうまくいかず、良い技術があるのに廃業せざるを得ないといった社会問題がありますよね。セレンディップ社は、そういった問題を抱える会社をグループに迎え入れ、企業の売買ではなくグループ全体で成長させるという、M&Aを企業成長に結び付けたビジネスモデルを持っていました。これにぜひ関わりたいと思い、入社を決めました。

ーー安定志向から挑戦志向に変わった経緯についてお伺いしたいです。

人との出会いやご縁を通じて、様々なことをインプットさせてもらったことが大きいです。例えば人事の採用業務一つ取っても、多様なスキルが必要です。どうすればより良い採用を行えるのかを常に考えていました。就職活動において会社のイメージは非常に重要ですので、ホームページや社員の雰囲気などを整えるコーポレートブランディングも必要になります。もちろん、面接の精度を高めて会社と学生のマッチング率を上げることも重要です。当時は愛知県であまり行われていなかったターゲティングの手法を取り入れるなど、様々な施策を実行しました。

人事として採用業務に携わる中で、会社のブランディングや発信力を高めることは会社にとって不可欠だと感じ、そういった業務により深く携わりたいと思いました。私の場合は、何かを学び、実践し、興味が湧いたことをさらに深掘りしていく中で、自分が本当に取り組みたいフィールドを探していたら、いつの間にか挑戦するマインドやチャレンジ精神が身についていた、という感じです。

ーーセレンディップ社入社後は、IR・広報部の立ち上げに尽力されたのですか。

はい。私が入社したのは、会社が上場して半年後のタイミングでした。当時はIRも広報も担当者がいない状況で、最初の面接で「勉強しながらでいいから挑戦してみてほしい」と言っていただいたんですです。IRに関しては本当に手探り状態だったので、本を読んだり、インターネットで情報収集したりすることから始めました。加えて、他社のIR担当者に積極的に会いに行き、アドバイスをいただきました。名古屋で開催されていたIRや広報の勉強会で積極的にIRに取り組むCFOやIRの皆様に出会い、「IRとは何か」「何を参考にすべきか」などを教えていただきながら、少しずつ形にしていきました。

IR Loungeでモデレーターをしている写真:2024/12/11 

セレスへの転職・IR業務へのさらなる挑戦

ーーその後、東京通信グループを経て、現在はセレスでIRを担当されていますが、具体的な業務内容を教えてください。

現在のIRチームは3名体制で、私はIR担当として主に決算発表資料の作成や投資家に向けての決算情報の発信などを担当しています。セレスはこれまで機関投資家向けのIRに注力してきましたが、個人投資家向けのIRは注力したばかりの段階だったため、現在はそこの強化を任されているという状況です。

具体的には、個人投資家向けのIRイベント企画・運営などを行っています。先日も、個人投資家向けの株式投資セミナー、当社の役員によるプレゼンテーション、そして投資家の方々との質疑応答や交流の時間を組み合わせた3部構成のイベントをオフィス近くの会議室で開催し、好評をいただきました。単なる会社説明会ではなかなか投資家が集まりにくいため、より気軽に参加でき、近い距離で交流できるような工夫を凝らしています。参加者の方々からは「これからも応援するよ」といった温かいお言葉もいただき、励みになっています。こうした取り組みを通じて、投資家との距離を縮め、「応援したい」と思っていただけるような関係性を築いていきたいと考えており、今後も継続していきたいですね。

ーー特に個人投資家向けのIRに注力されているとのことですが、他にどのような取り組みをされていますか。

イベント企画に加えて、情報発信力の強化にも力を入れています。前職での経験から、X(旧Twitter)などのSNSの活用が個人投資家へのリーチに有効だと分かっていたので、セレスでも会社の状況に合わせてXやnoteなどを活用し、積極的に情報を届けていきたいと考えています。

ーーXなどを活用した情報発信では、どのような手応えを感じていますか。

まず、IRにおいて会社のことを「認知」してもらうことが非常に重要だと感じています。個人投資家向けのIRは、認知から関心、調査、そして投資決定という4つの段階があると考えており、特に最初の認知と関心のフェーズでSNSは大きな役割を果たします。

決算情報などは専門的で分かりにくいことが多いですが、それを補足する形で、図やグラフを用いたり、分かりやすい言葉で解説したりすることで、会社の魅力を効果的に伝えることができると考えています。Xで情報収集する個人投資家は多く、その方々は情報を分かりやすく伝えてほしいと望んでいます。そのため、決算説明資料や決算短信といった、定められたルールで開示される最初の硬い情報を、Xやnoteで戦略的に、かつ行間を伝えていくように発信することを意識しています。

こうした発信を通じて、「この会社いいかも」「知らなかった魅力を知れた」といった反応をいただけると、確かな手応えを感じますし、IR担当者として「やってよかった」と思える瞬間ですね。IRというのは、投資家に企業の情報を伝え、当社が今どのような状況かをお伝えすることで、安心して投資をしていただき、良好な関係を構築していくものです。投資家の皆様には、投資スタイルや資産規模など様々なタイプがいらっしゃいます。その中で、個人投資家の皆様に「この銘柄が好き」と思っていただけるような会社を目指していきたいです。

IRという仕事の醍醐味と難しさ

ーーIR担当として、社内外と関わる上で意識されていることはありますか。

社内の方々に対しては、まず多忙な中でご協力いただくことへの感謝と、最大限の配慮を心がけています。そして、それぞれの専門分野を持つプロフェッショナルとしてリスペクトの念を持って接し、積極的に質問するようにしていますね。「このビジネスはどういう仕組みですか」「どんな層に魅力が響いていますか」といった具合です。そして、教えていただいた情報を投資家へ伝え、その反応を社内にもフィードバックすることで、双方にとって有益なコミュニケーションを目指しています。

ーー「橋渡し役」としての難しさ、苦労される点はどのようなところでしょうか。

現場とマーケット(投資家)の間には、情報の認識にギャップが生じやすい点ですね。例えば、現場は確信を持って「成長できる」と考えていても、前提知識のないマーケットからは「本当だろうか」と疑問視されることがあります。このズレを埋めるのがIRの役割です。投資家には分かりやすく情報を伝え、現場にはマーケットの反応を抽象度を上げてフィードバックします。厳しい意見も、そのまま伝えるのではなく、会社にとってプラスになる形を選んで伝えるようにしています。このチューニング作業は苦労もありますが、工夫次第で解決できる部分であり、やりがいにも繋がっています。

ーーどのような瞬間に、IRの仕事の達成感ややりがいを感じますか。

やはり、投資家の方々に「納得してもらえた」と感じる瞬間ですね。情報の認識や理解にギャップがあるのではないかという仮説に基づき、資料を作成し、説明に赴く。そこで「なるほど、そういうことか」とご理解が深まり、その後の面談で「株を買いましたよ」といったご報告を受けたり、株式の保有数が増加したりすると、本当にやってよかったと実感します。

ーー投資家からの意見をどのように活用していますか。

基本的に、投資家との面談内容は議事録として全て残し、社長を含めた経営層や広報チームが閲覧できる形で共有しています。これにより、経営陣には投資家の考えが常に伝わるようになっています。現場に対しては、一方的に情報を送るのではなく、日々のコミュニケーションの中で、「投資家は今こう考えていますよ」と伝えるようにしています。全ての情報を伝えるわけではありませんが、自分たちの活動がどう評価されているのか、マーケットの物差しとなるような情報は、積極的に共有するように意識しています。

個人投資家向けIR説明会の投資家交流会にて説明:2025/4/10

IR担当者としての成長と展望

ーー今後、IR業界で重要になると考えるトレンドやポイントは何でしょうか。

IRは「総合格闘技」と言われるように、多岐にわたる知識やスキルが求められます。マーケットやファイナンスの知識、社内外との調整能力、プレゼンテーション能力、分析力など、様々な要素が必要ですね。それだけでなく、トレンドを敏感に察知することも欠かせません。これらに優先順位をつけて取り組むことが重要だと考えています。

トレンドとしては、IR先進国である米国の上場企業の情報発信の仕方を参考にしています。また、アナリストレポートや国内外の経済新聞、所属している業界に特化したウェブメディアをチェックしていますね。加えて、東京証券取引所などが企業に求める開示基準やIR体制の強化といった要請にも注目しています。これらの情報を受け、会社のIRとして本質的に何が重要なのか、どう対応すべきかをチームで検討し、結論を出していくプロセスを重視しています。

ーーIR担当者に求められるスキルや、活躍する方の共通点は何だとお考えですか。

他社のIR担当の方とも積極的に情報交換をしていますが、本当に個性豊かで、皆さん優秀ですが、それぞれに強みをお持ちです。業界知識、ファイナンス、コミュニケーション能力など様々ですね。特に活躍されている方は、ご自身の強みを認識しつつ、さらに「自分やチームにこういうスキルがあれば、もっと良いIRができる」と常に考えていらっしゃるように感じます。パーソナリティの部分では、向上心、そして強い興味関心を持っている方が多いですね。投資家が何に注目しているのかに共感し、社内で深く掘り下げ、その魅力を伝えたいという情熱を持っている方が多い印象です。

ーー川上さんご自身が目指すIR担当者像について教えてください。

私はキャリアに関する「計画的偶発性理論」という考え方が好きなんです。予期せぬ出来事に対して意図的に行動することが、新しいキャリアやスキルに繋がるという理論で、「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」といった行動特性が重要だとされています。振り返ってみると、無意識のうちにこの理論に近い考え方を大切にしてきたように感じますし、それが今の仕事に繋がっている実感があります。

マインドとしてはこの理論を大切にしつつ、IR担当者としては、常に「人様のお金を預かって事業を運営している」という意識を持ち続けたいです。投資していただくということは、その信頼に応え、会社の状況を誠実に伝え、成長を目指す責任があると考えています。その真摯な姿勢は、これからも忘れずに持ち続けたいですね。

ーー改めて、川上さんが感じるIR業務の面白さとは何でしょうか。

自分の強みを活かしながら、さらに多様なスキルを身につけていける点です。例えば、私は企画が得意ですが、ファイナンスの知識はまだこれから、という段階です。一つ一つ学んでいくことで、出来ることが増えていく実感があり、挑戦しやすい環境だと感じています。そして何より、投資家という相手がいて、その反応をダイレクトに感じられることが、この仕事の大きな面白さだと思います。

ーー最後に、セレス社のIR担当として、今後挑戦していきたいことをお聞かせください。

様々な投資家の方々にお会いしていきたいですね。ただ闇雲に会うのではなく、ターゲットを明確にし、その方々にしっかりとアプローチしていくことを意識して、積極的に活動していきたいと考えています。

川上真帆

株式会社セレス
コーポレートコミュニケーション部IR・サステナビリティ推進グループ

南山大学卒。愛知県の自動車関連企業で秘書・人事採用を担当。その後、セレンディップHD(東証グロース・7318)に入社し、IR広報部の立ち上げを行う。拠点を東京都に移し東京通信G(東証グロース・7359)を経て、2024年8月よりセレス(東証プライム・3696)でIRに従事し現在に至る。

聞き手

佐藤愛奈

株式会社クロフィー インターン
法政大学現代福祉学部2年

編集後記:今回のインタビューを通して、IRが投資家向けの情報発信のみならず様々な投資家と会社をつなぐ架け橋となっているという点が印象的でした。インタビューにて、川上さんはIRのお仕事は総合格闘技だと語っていて、川上様の様々な挑戦や多職種の経験が現在のIR業務にて活かされていることを知りました。また、川上さんの物事を深くとらえ真意に迫ろうとする姿勢が、個人投資家に寄り添うIRにつながっていることがわかりました。社内と社外、マーケットと現場など多くの情報と交流の交差点となるIR担当の葛藤とその先にある確かな手ごたえを知ることができたインタビューでした。

※この記事は「インタビューAI」を用いて制作しました。

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